『推しの素晴らしさを語りたいのに「やばい!」しかでてこない』三宅香帆著(ディスカヴァー・トゥエンティワン)

レビュー

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『推しの素晴らしさを語りたいのに「やばい!」しかでてこない』三宅香帆著(ディスカヴァー・トゥエンティワン)

[レビュアー] 尾崎世界観(ミュージシャン・作家)

 エゴサーチがやめられない。ライブの前後はもちろんのこと、新曲リリースやメディア出演があれば、SNSの書き込みをつい気にしてしまう。見ていて、腹が立ったり、傷ついたりするけれど、匿名の言葉は遠慮がないぶんありがたい。長く活動をしていると、周囲の人たちから厳しい意見が出にくくなってくるからだ。

 「語彙(ごい)力がなくて、こんなことしか伝えられないのが悔しい」

 エゴサーチをしているとよくこんな言葉を目にする。周囲に溢(あふ)れる膨大な言葉の波に飲まれ、「いいね」にあっさり自分の気持ちを代弁させてしまう。そんな「語彙力がない」に惑わされず、「好き」を自分の言葉で語る豊かさを、本書は教えてくれる。読みながら、声の大きい人ばかりが目立つSNSの中で、小さな声に耳を傾けることがいかに大切かを実感した。そして、改めてファンが好きだと思う。「推し」に対する「好き」を言語化する術(すべ)を学ぶうちに、自分のように、「推す人」を推している表現者がいるということを、ちゃんと伝えたくなった。

読売新聞
2023年9月1日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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