いつか訪れる死を自分たちで選択し、後悔しないためにできること

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在宅医が伝えたい 「幸せな最期」を過ごすために大切な21のこと

『在宅医が伝えたい 「幸せな最期」を過ごすために大切な21のこと』

著者
中村 明澄 [著]
出版社
講談社
ジャンル
自然科学/医学・歯学・薬学
ISBN
9784065332641
発売日
2023/08/23
価格
990円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

いつか訪れる死を自分たちで選択し、後悔しないためにできること

[レビュアー] 印南敦史(作家、書評家)

在宅医が伝えたい 「幸せな最期」を過ごすために大切な21のこと』(中村明澄 著、講談社+α新書)の著者は、千葉県八千代市の在宅緩和ケア充実研究所「向日葵クリニック」で訪問診療を行っているキャリア11年の在宅医。これまでに1000人以上の患者さんを看取り、各人の希望が叶えられるように努めてこられたのだそうです。

死は誰にも必ず訪れるものであり、生きている日常のなかにあるもの。だからこそ大切なのは、必要以上に死を恐れることなく、日々を、その瞬間を大切に過ごすこと。そこで、同じ時間を過ごすなら、ましてやその時間が限られているのなら、穏やかに少しでもよい時間を過ごしてほしいと願っておられるわけです。

こうした思いを胸に、日々患者さんやご家族と接する中で、「ああ、こんな風に過ごせたら素敵だな」と思うことがあります。そこに共通しているのは、物事を明るい方向から見ていること。これを私は「幸せ感じ力」と呼んでいますが、幸せ感じ力が強い人は、総じて幸せな人生の最終段階を迎えているように感じます。(「はじめに」より)

たとえば大切な人を見送ったあとに「あれもできた」と思うか、「あれしかできなかった」と思うか。同じ状況であっても、見方や捉え方で心のあり方が大きく変わってくるのです。

そして、もう一つ大切なことが、自分たちにとって納得のいく選択ができていること。療養が必要になった時、どこで過ごすのか、何を大切にして過ごしたいのかーー。これらを自分たちの意思で選択していくことが、ポジティブな心のあり方に大きくつながってくる印象です。(「はじめに」より)

自分たちで選択するためには、正しい知識が必要。つまり、幸せな時間を過ごす第一歩は“知ること”から始まるということ。そうした考え方に基づいて、本書では、おもに暮らし慣れた自宅で、幸せな時間を過ごすために知っておいてほしい知識をまとめているわけです。ここでは3「『受け入れる』ことで納得のいく過ごし方ができる」に焦点を当ててみたいと思います。

現実を受け入れることで幸せに過ごせる

大切な人については誰しもが、「いつまでも元気で長生きしてほしい」と願うはず。しかし家族がそう願うあまり、老いや病気で弱っている現実を受け入れられず、本人も家族もお互いにつらくなってしまっているーー。そんな姿を、著者はしばしば目にするそうです。

たとえば、子がいつまでも元気な親の姿を追いすぎるのは、ある意味では酷なことでもあるでしょう。人はいつか必ず老いるのだから、親の老化を認めたほうが優しくなれる場合もあるわけです。

老いを受け入れ、あたたかく見守る。それができたら良いコミュニケーションが取れると思います。(39ページより)

もちろん、大切な人に死が近づいていることを受け止めるのは、誰にとってもつらく受け入れ難いこと。そのため、「奇跡が起こって改善するかもしれない」と、現実から目を背けて奇跡ばかり追い求めてしまう人もいるかもしれません。しかし、家族が現実を受け入れられないことが、ときに本人を苦しめてしまう場合もあることを心にとめておくべきなのです。

本人への「頑張れ」という言葉も、頑張ってほしい気持ちの“押し付け”になることがあります。「最後まで諦めずに闘い抜いてほしい」という家族の気持ちに、本人が何とか応えようと無理をしてつらい思いをしてしまうことがあるのです。(40ページより)

本当に大切なのは、がんばることを強いるのではなく、現実を受け入れて寄り添うこと。そうすることで、本人と家族が幸せに過ごせるということを、著者も患者さんと家族から学んだのだといいます。重要な視点は、「受け入れる」ことと、「諦める」ことは違うということであるようです。(38ページより)

幸せな最終段階のために話し合う「人生会議」

自分がいま、どの段階にいて、今後どうなるのか。それを知った患者さんが幸せな人生の最終段階を過ごすために大切な話し合いを「人生会議(ACP:Advance Care Planning)」と呼ぶそう。ここ数年、日本でも活発に議論されるようになったテーマなのだといいます。

ACPの定義は、「今後の治療・療養について患者・家族と医療従事者があらかじめ話し合う自発的なプロセス」と言われています。終末期に意思決定が必要な患者さんの約七割が「意思決定が困難」と言われており、終末期になる前に、本人の意向や価値観について理解し共有し合うことが大切です。ACPで話し合うことは、患者本人の価値観や目標、意向や気がかりに感じていること、病状や予後の理解、さらに治療や療養に関する意向などです。(39ページより)

つまりACPには「蘇生処置の実施の有無」といった医療の選択にとどまらず、医療やケアについての本人の価値観や、最期をどう過ごすかといった話題も含まれるわけです。

本人が希望すれば、家族や友人も同席し、医療やケアの専門スタッフと話し合うことがポイントで、そのプロセスこそがとても大切だそうです。(40ページより)

「いわない」のは、本人のためなのか?

あとから患者さんが、「あのとき知っていたら、あれができたのに」と思うようなことは極力避けたいところ。したがって、「知らないことで幸せに過ごせる」ことを除き、本人もある程度現実を知っておいたほうがいいと著者はいいます。

しかし時折、「本人がかわいそうだから」と病状について本人に知らせないという判断をする家族もいるようです。その気持ちもわからないではありませんが、その判断によって本人が病状を理解する機会を逃すことになり、自分の選択をするチャンスを逃してしまうということもあるでしょう。

隠し事があると、無意識のうちにコミュニケーションが減ってきます。時間が経つにつれ、嘘を重ねることが苦しくなり、会話が少なくなるのです。隠していることで、後からつらくなるのは本人も家族も同じです。(43ページより)

また、家族がどれだけ隠したいと思っても、最期が近づくと、本人も死期を察するものですし、察したときにはやりたいことをやるのが難しい状態になっていたりする場合も少なくありません。それなら少しでも早めに現実を知り、いろいろ準備できた方が、本人にとっても家族にとってもいいはず。つらい現実であっても、それを共有しあって話し合うことで、よりよい時間が過ごせるということです。

もちろん本人が「最後まで知りたくない」という場合には、無理に伝える必要はありません。ですが、あえて知らせないという選択をする時は一度立ち止まり自分に聞いてみてください。「本人がかわいそう」という気持ちと同じぐらい、いやもしかしたらそれ以上に、「悲しむ本人を見たくない」という心理が隠れていないでしょうか。(44ページより)

「伝えない」ことは誰のためなのか、しっかり考えたうえで選択する必要があるのです。(42ページより)

なにを大事にして過ごしたいかは人それぞれ。そして、過ごし方はひとりひとり違ってもよいもの。そして大切なのは「自分らしい時間を過ごせるかどうか」「大切な人とよい時間を過ごせるかどうか」。そこで本書を通じ、自分らしい生き方、自分らしい最期の過ごし方について考えてみたいところです。

Source: 講談社+α新書

メディアジーン lifehacker
2023年9月2日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

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