『自律神経のなかで最も大切な迷走神経の整え方』
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乱れがちな自律神経のバランスを保つには「迷走神経」を整えることが重要だった!
[レビュアー] 印南敦史(作家、書評家)
『自律神経のなかで最も大切な迷走神経の整え方』(小林弘幸 著、フォレスト出版)の著者は、いまほど自律神経を整えることが求められている時代はないと指摘しています。ご存知の方も多いでしょうが、順天堂大学医学部教授であり、30年以上にわたり自律神経について研究してきた実績を持つ人物。
生命活動の根幹である呼吸、血管、心拍、筋肉、臓器などのはたらきを無意識にコントロールしている自律神経は「交感神経系」(以下、交感神経)と「副交感神経系」(以下、副交感神経)という、自動車でいうアクセルとブレーキのように正反対のはたらきを持った2つの神経で構成されています。(はじめにーー自律神経のなかで最も大切な神経がある」より)
自律神経のバランスがよい状態とは、交感神経と副交感神経の機能がどちらも高く、釣り合いがとれていること。
ところがストレスの多い現代社会ではそのバランスが崩れ、とくに交感神経が過剰に優位に傾いている人が急増しているのだとか。それは、アクセル全開で駆け抜けようとしているような状態だといいます。
このような時代で、心も体も健やかに過ごすために有効な手立てが、迷走神経を活性化させることです。
迷走神経は自律神経のなかでも、副交感神経を支配している重要な神経です。
迷走神経がしっかりはたらくと、ブレーキがほど良くきいているように副交感神経の機能が高まって、体は安らぎ、心は安定していきます。
そして、交感神経の高ぶりをおさえて、自律神経のバランスが平衡を保つようになります。(はじめにーー自律神経のなかで最も大切な神経がある」より)
迷走神経をうまくはたらかせるためには、脳と臓器を結ぶ直通回線に、よりよい情報を行き来させることが大切であるようです。そこで本書では、迷走神経と腸、呼吸、睡眠、生活習慣、ストレスとのかかわりから、迷走神経のはたらきや整え方をまとめているわけです。
きょうはそのなかから、第5章「迷走神経を整える生活習慣」に注目してみたいと思います。
すぐに行動して、ゆっくりていねいにこなす
やるべきことや予定があるにもかかわらず、別のことに時間を費やしたり、やる気が出ないからと先延ばしにするーー。そんな「先延ばしマインド」がある方は、決して少なくないはず。
2023年、スウェーデンのソフィアヘメット大学などの研究チームが、約3000人の学生の「先延ばしマインド」がどの程度あるかを評価した結果を報告しました。先延ばし傾向が強い人ほど、うつ病、ストレス症状の悪化、睡眠の質や身体活動の低下などがあることがわかりました。(151ページより)
この傾向が強い人は、予定や締め切りに近づくと必要以上に焦ったり、やる気を出すために自分自身を追い込んだりすることが多いそう。それが次第にストレスや不安となっていき、やがて自律神経のバランスが崩れてしまうわけです。
なお著者は、仕事でもプライベートでも「すぐ動く」ことを意識しているのだといいます。嫌なことや大変なことは、なおさら。
たとえば、家で皿洗いをするとしましょう。帰宅直後、シンクに皿が積み上がっているのを見れば、ついつい後回しにしなくもなるはず。しかしそんなときにも、すぐにやるというのです。なぜなのでしょうか?
先延ばしにするよりも、真っ先に手をつけたほうがストレスはなく、自律神経のバランスを崩さないことを知っているからです。(151ページより)
人は動けば動くほどフットワークが軽くなり、動かなければ動かないほど、どんどん身動きがとれなくなるということです。(150ページより)
疲れたときこそ手と体を動かす
ただし、すぐに行動することが大切だとはいっても「焦り」は禁物。すぐに行動することと、焦って取り組むことはまったく別ものなのです。
せかせか動く、早口で話す、すごいスピードでキーボードを叩くなどの行為は、無意識に行われている反射のようなもの。それは、交感神経が過剰に高ぶっている証なのだそうです。テキパキとしているように見えるかもしれませんが、単にイライラしたり不安に陥ったりしているため、「動きが速く、雑になっている」だけだということ。
リラックス状態を作る迷走神経にとって「動きが速く、雑になっている」ものほど「不得手」なものはありません。極端なくらい「ゆっくり、丁寧にする」ことで迷走神経は整っていくと認識してください。(152ページより)
たとえば、なにか作業をしているときに横やりが入って別の仕事を頼まれたりすると、集中が削がれてイライラするかもしれません。だとすれば当然ながら、そんな精神状態のまま仕事を続けてもミスを連発するだけ。したがって、そんなときに大切なのは、ゆっくり歩いてトイレに行くなど、いったん席を離れてみること。
また、トイレで手を洗うときの動きも重要。しっかり石鹸で手を洗い、十分に水気を落としてから、ハンカチで拭く。そのハンカチも、きちんとたたみなおしてからバッグにしまう。そうやって「ゆっくり、ていねいに」を意識するだけで、迷走神経は整うというのです。
もちろん、急いでせわしく手を洗った場合とくらべれば、時間はかかるかもしれません。しかし、時間の差よりも効果の差は歴然。迷走神経が整うことで、そのあとの仕事のミスは確実に減るそうです。
動作を少しスピードダウンするのは、そんなに難しいことではありません。今、自分が何をしているのか、一つ一つ確認することで実現できます。(153ページより)
だからこそ、動くときはもちろんのこと、話をするときにも、さらにいえば焦ったときにこそ、「ゆっくり、ていねいに」を思い起こすべきだという考え方。小さなことではありますが、たしかにそうしてみれば気持ちは安らかになりそうです。すなわちそれが、瞑想神経が整ったことの証なのでしょう。(152ページより)
現代社会は、心と体を乱すさまざまなものに囲まれています。そんななかで生きる私たちが自律神経の微妙なバランスを整えるためには、迷走神経を意識することがとても重要だと著者は強調しています。体をよりよい状態に保つためにも、知識を得ておくべきかもしれません。
Source: フォレスト出版