バランスを崩す前に立て直したい 心の不調を扱うプロの対処法は?
[レビュアー] 渡邊十絲子(詩人)
人は本来、悩みをかかえて生きていくものだとは思うが、コロナ禍、雇用の不安定さ、終わらない戦争、物価高と、生存の土台をじわりと圧迫する不安材料が積み重なっていくばかりの昨今だ。精神的に疲弊している人も多いだろう。不調を感じて心療内科や精神科を受診しようとしても、初診の場合二週間待ち、一カ月待ちが珍しくないそうだ。
肉体も精神も、バランスを崩して倒れてしまう前に立て直しをはかりたい。そんなとき、心の不調を扱うプロはどう対処しているのだろう。この本は、ストレス心理学の専門家であり、臨床心理士としてカウンセリングをおこなう側の人である著者が、不安やつまずきにどんな「セルフケア」をしてきたかを語る本だ。自身の弱点も失敗も家族の問題も、豪快に開示してくれている。
結婚生活の不幸を長年にわたり訴えつづけた母親に巻き込まれ、無意識のうちに感じ方や言動を支配されていたことや、ものごとにのめりこみやすい傾向があり、タバコやギャンブルがやめられなくなったことなど、読者にも大なり小なり心当たりがあるのではないかと思う。それらを乗り越えてきた「セルフケア」の話に耳を傾けてみると、新鮮な発見がある。
精神の不調の陰にある認知(ものごとに対する感じ方、とらえ方)の偏りに働きかけ、「思い直す」そして「行動を変える」ためのメソッドが書かれている。「認知再構成法」は、自分が自分と対話して考えを整理していく方法。「問題解決法」は、問題点の洗い出し・解決策のイメージ・実行と検証という手順で、いつまでも同じところをぐるぐる回ってしまう「悩み」の思考から抜け出すための方法。どちらも例として挙げられているのは著者自身の体験だ。読み物として受け止めてももちろんいい。自分の思考を見直すきっかけになれば、気ばかり焦って次の一歩が出ない状態から脱け出せるかも。