『創造性はどこからやってくるか』
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「創造」とは空っぽで待つ賭け
[レビュアー] 渡邊十絲子(詩人)
生活も仕事も細部までマニュアル化がすすみ、われわれの社会がまわり道や試行錯誤を許容する余裕をなくして久しい。効率こそが至上の価値と考えるならば、人間が働くよりも人工知能のほうがうまくやる。
悲観論を言いたいのではない。AIが小説を書くようになっても、そこにはある限界が存在するのだ。
郡司ペギオ幸夫『創造性はどこからやってくるか』は、人間のもつ可能性についての書。理学博士である著者がアートの展示をおこなうに至った経緯や、その土台となった生活上のあれこれ(親を見送り実家の整理をするなど)が具体的な手触りとともに描写されていて、「表現」があなたと無縁のものではないと実感できるはずだ。「表現」は小説家や俳優だけがするものではない。幼な子をどう遊ばせるか、仕事上の人間関係においてどういう言葉で自己主張をするか。それらもすべて「表現」の問題だと思いながら読んだ。
既知の因果関係を積み重ねても、創造性はやってこない。「これまでに得た知見」と「そこから合理的に導き出した判断や行動」は、未知を召喚できない。創造とは、自分を空っぽにして、世界の「外部」にある未知のものを待つという賭けだ。著者はそう言っている。空無を抱える自分を人に見せるのは怖いことで、じつはそれこそが表現者の資格なのかもしれないと思った。この本には、こうした「表現」の機微がシャープに描き出されている。今年いちばんの胸熱本だ。