『索引 ~の歴史』
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『索引 ~の歴史 書物史を変えた大発明 (原題)Index, A History of the』デニス・ダンカン著(光文社)
[レビュアー] 小川哲(作家)
情報アクセス 時代の鏡
漱石が飼い猫について言及していたのは、どのエッセイだっただろうか。フーコーがボルヘスの『異端審問』を引用しているのは、どの箇所だっただろうか。そんなとき、私たちは漱石の全集を頭から読み直さなくても、あるいはフーコーの著作を片っ端から確認しなくても、索引を使うことで該当箇所にたどり着くことができる。日常的に本を調べる必要がない人でも、誰かに電話するときに電話帳を調べたり、グーグルの検索窓に語句を入力したりすることならあるだろう。これらも立派な「索引」だ。
本書は「索引」の歴史をまとめた本だ。「索引」はいつ誕生したのか。誰がどのように思いつき、どのように利用されてきたのか。そもそも「索引」とはいったい、なんなのだろうか。「索引」の歴史を読み解くことは、私たちがどのように情報にアクセスしてきたかを振り返ることでもある。たとえば、写本によって読書文化が支えられていた時代は、文章を写しとる紙の大きさが違ったせいで本によってページ数が変わり、「索引」がうまく機能しなかった。活版印刷の技術によって本の判型が揃(そろ)うと、ようやく「索引」が力を発揮するようになる。しかし、電子書籍が普及した現代では、読者が画面のレイアウトを好きなように設定できるようになり、再び従来のページ数による「索引」が機能しなくなってきている。読売新聞本社への行き方を調べようとするとき、私たちはインターネットの検索窓に「読売新聞本社への行き方を教えてください」と聞かず、単に「読売新聞 最寄駅」などと打ち込む。時代によって、「索引」は姿を変え、私たちの脳のあり方まで変えている。
フィルターバブルやエコーチェンバーなど、情報へのアクセスの仕方が人間の知性に与える影響について懸念があるのも事実だが、「索引」に対して同様の懸念があったという歴史は示唆的だ。知識のあり方について考えるきっかけを与えてくれる本だ。小野木明恵訳。