『地図バカ』
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<書評>『地図バカ 地図好きの地図好きによる地図好きのための本』今尾恵介 著
[レビュアー] 土井礼一郎(歌人)
◆「好き」を専業にした人生
口絵には古い地図帳を手に、なにか懸命に語りかける著者の近影がある。
<地図研究家>として多くの本を世に送り出した著者であるが、本書は『地図バカ』というだけあって、地図そのものより、地図に魅せられた自身の来し方を語るほうに重きがおかれる。架空の街の地図を描き続けた中学時代。長じて自作のイラストマップを出版社に売り込み、やがて「地図専業」となる30代-。
ひとつひとつの地図へのまなざしも重層的だ。古書店で入手した地形図の蔵書印や書き込みから旧蔵者に思いを馳(は)せ、明治・大正期の地図の多色刷りに息をのむ。実現しなかった鉄道の株主募集パンフレットや全国の国鉄線の車窓風景を文章で描写した奇書にも目を配り、ときには地上に降り立って全国の「珍名踏切」を訪ね歩く。本当に好きなことを「専業」にした人特有の泥臭(くさ)さがここにある。
かの写真の仕事場におじゃまして、地図をびっしり詰めこんだ書棚に囲まれながら「好き」とはどういうことか著者に教えを請う。そんな趣の一冊だ。
(中公新書ラクレ・990円)
1959年生まれ。地図研究家。日本地図学会専門部会主査。
◆もう一冊
『地名崩壊』今尾恵介著(角川新書)。地名の成立と変貌を追い、あるべき姿を考える。