『データにのまれる経済学』
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『データにのまれる経済学』前田裕之著
[レビュアー] 牧野邦昭(経済学者・慶応大教授)
経済学というと特定の理論や思想に基づく政策にこだわったり、難解な数式を駆使したりするというイメージがあるかもしれない。しかし最近のビッグデータ活用の潮流の中、経済学も実証中心となりつつある。
本書はデータを縦横に活用するようになった経済学界の変化について、数式を一切使わずに概観しており読みやすい。近年、開発経済学や労働経済学などで盛んに活用されているランダム化比較試験(RCT)などにより経済学は実証中心に大きく変化し、データにより実証されたエビデンスに基づく政策立案(EBPM)が求められるようになっている。一方で著者はこうした傾向の行き過ぎにも警鐘を鳴らしている。
経済学のデータサイエンス化は不可避だが、他方で経済学、さらに人々の意思は価値観やイデオロギーから自由ではない。また特定のエビデンス以外の要素を軽視するのも望ましくない(「エビデンスが無い」が「前例が無い」と同じように使われてはならない)。データにより経済学はどのような方向に向かうべきか、経済政策はどうあるべきか、考えさせられる本である。(日本評論社、2420円)