『派閥の中国政治 毛沢東から習近平まで』李昊著

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派閥の中国政治

『派閥の中国政治』

著者
李 昊 [著]
出版社
名古屋大学出版会
ジャンル
社会科学/政治-含む国防軍事
ISBN
9784815811310
発売日
2023/08/22
価格
6,380円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

『派閥の中国政治 毛沢東から習近平まで』李昊著

[レビュアー] 遠藤乾(国際政治学者・東京大教授)

縁故・恩の絆 政争100年史

 強大化する中国の政治はどこに向かうのか。習近平の個人独裁が深まるなか、無関心ではいられない。

 この本は、中国共産党内の派閥に注目し、その100年史を紐解(ひもと)く。著者の李昊(りこう)氏は、新進気鋭の中国政治研究者。比較政治学で蓄積のある派閥研究と中国政治史研究を掛け合わせ、一党独裁下の中国における派閥の盛衰と政争を追跡する。

 簡単な作業ではあるまい。レーニン主義政党では分派活動は禁止され、その存在と活動は水面下に潜らざるをえない。しかし、党が国家となり、エリートが昇進を求め仲間を作るなか、一党独裁下でも派閥はなくなりはしない。それは職縁や地縁などの縁故を紐帯(ちゅうたい)とし、党内に留(とど)まり続けなお、個人的な恩顧とともに、継続的な協力関係を構築する。

 翻れば、毛沢東は草創期の中共にあってソ連留学組と周恩来を引きはがし、派閥を操縦することで権力を確立した。既に個人独裁の下にあった文化大革命の動乱時にも、毛沢東は軍を中心とする林彪集団と江青グループを天秤(てんびん)にかけ、後者に軍配を上げた。その後、華国鋒政権期に余秋里率いる石油閥が跋扈(ばっこ)するも、1970年代末から陳雲を中心とする経済保守派が台頭し、改革に傾くトウ小平との二大巨頭体制に移行する。90年代以降は後者が支配的となり、空前の経済成長と社会変容を経験するが、江沢民は上海閥のボスとしてそれを差配し、胡錦濤時代にも栄華を誇った。両者が没落した後に来るのが習近平の個人独裁である。

 著者によれば、この中共における派閥の盛衰は政策転換と結びつき、支配の柔軟性と安定性をもたらした。そこへの注目は、他の権威主義体制を見る際にも貴重な視座を提供するという。

 派閥は「アクター」と呼べるか。分派を禁ずる中共で緩く流動的でしかない派閥は、客観的にあると言えるか。政治学的な問いは尽きない。実践的にも、習近平の個人独裁は、本書の仮説に従って、本質的に不安定だとまで言えるかどうか。著者と対話しながら、読者は中国の将来を考える良い機会を手にする。(名古屋大学出版会、6380円)

読売新聞
2023年10月6日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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