上野千鶴子、高口光子『「おひとりさまの老後」が危ない! 介護の転換期に立ち向かう』(集英社新書)を三好春樹さんが読む 介護現場のゲリラ戦士たち

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「おひとりさまの老後」が危ない! 介護の転換期に立ち向かう

『「おひとりさまの老後」が危ない! 介護の転換期に立ち向かう』

著者
上野 千鶴子 [著]/髙口 光子 [著]
出版社
集英社
ジャンル
社会科学/社会
ISBN
9784087212839
発売日
2023/10/17
価格
1,100円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

上野千鶴子、高口光子『「おひとりさまの老後」が危ない! 介護の転換期に立ち向かう』(集英社新書)を三好春樹さんが読む 介護現場のゲリラ戦士たち

介護現場のゲリラ戦士たち

 論争には滅法強そうな上野千鶴子さんと、介護界では口喧嘩で負けたことのない高口光子さんの対談本が出るという。
「おひとりさま」で、老いを正面突破しようとする学者に対して、「それは無理。老いは自立より依存、プライバシーより関係を求めるんだから」と現場から異議を唱えるという内容かなという私の予想は見事に外れた。
 医療モデルに対して生活モデルの介護を教育しつづけた高口が、事実上解雇されたという事件を、学者の上野が介護の危機として取り上げ、高口を「事情聴取」したもの。
 高口の介護現場での奮闘ぶりには、上野も感心しきりだが、解雇が予想外だったという高口には厳しい意見も。
「戦略の間違いを戦術で補うことはできない。戦術の間違いを戦闘で補うことはできない」。ここでいう戦略とは政治、制度。戦術は経営責任者の姿勢。そして戦闘とは現場の介護だ。
 最強の戦闘指揮者の高口が、戦略、戦術に無関心だったことが解雇という危機を招いたのではないか。対談では高口は上野にオルグされているように見える。でもちょっと待ってほしいなあ。
 かつて病院での抑制(手足を縛ること)を批判すると「人手が不足しているから」と猛反発された。
 しかし、発想の転換と工夫によって抑制以外のいまできることをせずに、制度が良くなり人手が増えたとしても適切な介護ができるという保証はないではないか。「余裕をもって手足を縛る」ことになりかねない。
 たとえ戦略と戦術がまともでも、戦場の兵士が闘い方を知らないのでは勝てるはずもないのだ。高口も私もその闘い方=介護の具体的方法を提起し続けてきた。なにしろ制度が良くなるまで老人たちは待ってくれない。
 戦略も戦術も無いまま、まるでゲリラのように闘ってきた介護職にとって、その方法は、自己嫌悪に陥らずに生きていくための武器でもあるのだから。

※高口の高は、はしごだかが正式表記。

三好春樹
みよし・はるき●理学療法士・生活とリハビリ研究所代表

青春と読書
2023年11月号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

集英社

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