『〈東京オリンピック〉の誕生』
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<東京オリンピック>の誕生 浜田幸絵(さちえ)著
[レビュアー] 澤宮優(ノンフィクション作家)
◆歴史から五輪の意義を探る
東京五輪まで二年を切ったが、なぜ東京で大会を開催するのか、今もその意義を見出(みいだ)せないのが大方の思いだろう。本書は、一九四〇年大会の東京開催が決定したのに戦争などの諸事情で中止に追い込まれた幻の東京五輪と、戦後復興の象徴である六四年の東京五輪を核に、オリンピックの歴史を辿(たど)ることでオリンピックそのものの意義を探求した貴重な提言になっている。
四〇年の幻の大会は、主競技場としてオリンピック村に隣接する駒澤総合運動場を新設し、開催する予定になっていた。聖火リレーも西洋と日本との文化的な連続性を伝えるため、アテネからシリア、インド、内モンゴル、北京、朝鮮、日本へというルートが決まった。さらに東京ほか大都市でテレビジョン放送も行う予定だった。だが志半ばですべては中止された。
その後も日本は東京招致の可能性を探り、それが実現したのが六四年の東京五輪である。このときも四〇年大会と同じく、東洋初の五輪という意義が強調され、聖火リレーもアテネからアジアを経由して東京へというルート、競技会場も四〇年当時に計画された場所で実施された。テレビ放送も急速に発展し、八割の家庭に普及していた。東京五輪は四〇年に中断された大会の精神が一本の糸で繋(つな)がり、その悲願が結実する形で実施されたものだった。
六四年大会の開会式について、作家の杉本苑子(そのこ)は共同通信配信の文章で、二十年前に同じ場所で出征してゆく学徒兵たちを見送った、と書いた。<きょうのオリンピックはあの日につながり、あの日もきょうにつながっている。私にはそれが恐ろしい。祝福にみち、光と色彩に飾られたきょうが、いかなるあすにつながるか、予想はだれにもつかないのである。>
東京五輪はいかなる明日に繋がってゆくのか、その問いに答えることが大会の意義であり、それは歴史から学ぶことで可能になる。その一つが平和の祭典という五輪の原点に立ち返ることである。その学びは今からでも遅くはないことを本書は伝えている。
(吉川弘文館・4104円)
島根大准教授。著書『日本におけるメディア・オリンピックの誕生』など。
◆もう1冊
ジュールズ・ボイコフ著『オリンピック秘史』(早川書房)。中島由華訳。