国連事務総長 世界で最も不可能な仕事 田仁揆(でんひとき)著

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国連事務総長

『国連事務総長』

著者
田 仁揆 [著]
出版社
中央公論新社
ジャンル
歴史・地理/歴史総記
ISBN
9784120052255
発売日
2019/08/08
価格
2,750円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

国連事務総長 世界で最も不可能な仕事 田仁揆(でんひとき)著

[レビュアー] 池上清子(長崎大大学院教授)

◆肩入れできぬ困難な取り組み

 ノルウェー、スウェーデン、ビルマ(現ミャンマー)、オーストリア、ペルー、エジプト、ガーナ、韓国、ポルトガル…。これらの国名を見て、どんなことを想像するだろうか? これらの国は、国連事務総長の出身国である。いわゆる小国であり、より政治的に中立に近い国とされ、地域的なバランスをとりながら、安全保障理事会が選考した結果である。

 来年は国連が創設されてから七十五年。国連事務総長の目線で戦後史を読み解く本書は、国際政治を縦糸に、事務総長の役割や活動を横糸にして、国連史を紡いでいる点でユニークである。米ソ対立、国連軍の派遣、ベトナム戦争、ユーゴスラビア紛争、アメリカの分担金未払いによる財政危機など、様々な問題に直面してきた事務総長が、どのようにそれらの課題と闘ってきたのか。

 その相手は、これらの国際政治の課題であると同時に、安保理常任理事国でもある。九代にわたる国連事務総長は安保理メンバーの顔を見ながら、しかし、決して肩入れしてはならない立場から、それぞれに困難な事態に取り組んできた。著者は、新聞記者の経験がある元国連職員で、その立場でないと分からないことが詳しく書かれており、読者に臨場感を与えている。

 実は私も国連職員の経験があるが、巨大官僚組織である国連にいると、安保理で議論されていることは、翌日のニューヨーク・タイムズを読んだほうが分かりやすいと冗談を言いあったものだ。国連と一口に言っても様々な機関が競合していたことも問題で、「一つの国連」としてフィールドでの調整を進めたコフィー・アナン第七代事務総長の手腕に、私は当時感心した。

 初代の事務総長トリグブ・リーは、その職務を「世界で最も不可能な仕事」と語り、著者は「行政長官と世界のトップ外交官という二つの相反する役割」と指摘する。国際政治を志す人たちだけでなく、グローバル・リーダーシップや課題解決法などに関心のある人たちに本書を読んでほしいと思う。

(中央公論新社・2750円)

英字新聞記者を経て国連本部勤務。2014年に退職し、執筆活動に入る。

◆もう1冊 

植木安弘著『国際連合 その役割と機能』(日本評論社)

中日新聞 東京新聞
2019年10月6日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

中日新聞 東京新聞

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