【聞きたい。】高嶋進さん 『心を彫る 田川憲と棟方志功』

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【聞きたい。】高嶋進さん 『心を彫る 田川憲と棟方志功』

[レビュアー] 桑原聡(産経新聞社 文化部編集委員)

 ■人間は言葉でできている


高嶋進さん

 東京山手教会の地下にあった伝説の小劇場、渋谷ジァンジァン。昭和44年にオープンし、平成12年に幕を下ろすまで、30年にわたり時代を撃つ芸術の発信基地として、全国にその名をとどろかせた。オーナー兼プロデューサーとして活躍した高嶋進さんは来年米寿を迎える。

 「終活」と言っては失礼だが、ここ数年、高嶋さんは『ジァンジァン狂宴』など、自身の生涯とジァンジァンで出会った傑物たちの姿を描いた作品を矢継ぎ早に発表している。本書もその流れに位置づけられる。

 「日本語から言霊が消えて、単なる道具になってしまった。日本語の持つ重層性や微妙なニュアンスは効率的ではないということなんでしょう。高校では論理国語なる科目が登場することになった。文部科学省の視学官は『小説を読み、登場人物の心情を理解してどうするのか』という趣旨の発言をしている。もうこの国は終わりかな。生きているのがいやになった」

 高嶋さんは憤る。

 本書は、田川憲と棟方志功の版画に出合い、魂を激しく揺さぶられた高嶋さんが、ふたりの世界の迷宮に入り込み彷徨(さまよ)った記録だ。田川にはランボー、棟方にはニーチェの言葉があった。その言葉によって画魂を呼び起こされたふたりの姿を詩的に描きだす。ふたりは版画家である前に文学者だった。高嶋さんが伝えようとするのは次の言葉に尽きる。《人間は言葉でできている、心で彫れ》

 言葉がただの道具に成り下がってしまえば、言葉でできている人間は、でくの坊になってしまう。現にそうなりつつある。

 「現在の日本は、日本語圏と(会員制交流サイトで使われる)SNS語圏に分断され、日本語圏はどんどん縮小している。SNS語圏では思索は難しいと思うな。長く生きすぎたかな。日本語で話せる相手がどんどんいなくなってきた。話し相手の谷川俊太郎も美輪明宏も現役で頑張っているけれど、きっと同じ心境じゃないかな」(左右社・1800円+税)

 桑原聡

   ◇

【プロフィル】高嶋進

 たかしま・すすむ 昭和7年、新潟県生まれ。青山学院大卒。著書に『ジァンジァン終焉(しゅうえん)』『崖っぷちの自画像』など。

産経新聞
2019年10月13日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

産経新聞社

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