<書評>『体罰と日本野球 歴史からの検証』中村哲也 著

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体罰と日本野球

『体罰と日本野球』

著者
中村 哲也 [著]
出版社
岩波書店
ジャンル
社会科学/社会
ISBN
9784000616225
発売日
2023/12/18
価格
2,750円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

<書評>『体罰と日本野球 歴史からの検証』中村哲也 著

[レビュアー] 斎藤貴男(ジャーナリスト)

◆罷り通る あしき伝統

 あの長嶋茂雄は立教大時代、「月夜の千本ノック」で鍛えられた。同じバットで故・砂押邦信監督は選手たちを殴りまくってもいたのだが、そちらの顔は黙殺されやすい。氏の異名が“鬼”だったと聞いても、私たちは「ミスターの恩師」としての厳しさばかりを見ていた。

 スポーツ界の体罰は古くて新しい大問題だ。どれほど追及され、文科省の通達が重ねられても、罷(まか)り通り続けている。

 中学から大学まで野球部だったスポーツ史家が、今日に至る経過と構造を検証し、解消への道筋を提示した。大正後期に頻発し始めた体罰が、戦後になって激化していくさまは、ある種の合理性を伴ってもいたという。だからこそ恐ろしい。

 先人を全否定するキャンセル・カルチャーに陥ってはならぬ。根性論のすべてが悪でもないはず、ではあるけれど。

 そう考えがちな私たちの多くは元野球部ではない。“伝統”擁護を言葉にできる元選手たちもまた、一握りの成功者だ。犠牲にされた人々が忘れられることだけは、あってはならないのである。

(岩波書店・2750円)

1978年生まれ。高知大准教授。『学生野球憲章とはなにか』

◆もう一冊

『巨人の星』梶原一騎原作、川崎のぼる画(講談社)

中日新聞 東京新聞
2024年3月3日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

中日新聞 東京新聞

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