子どもたちにとって泣くことは唯一のコミュニケーション手段 『うちの子が泣いてるワケ』

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うちの子が泣いてるワケ

『うちの子が泣いてるワケ』

著者
グレッグ・ペンブローク [著]/波田 孝介 [訳]
出版社
新潮社
ジャンル
芸術・生活/写真・工芸
ISBN
9784105068516
発売日
2015/02/27
価格
1,320円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

泣きたいのはこっちだぜ!

[レビュアー] グレッグ・ペンブローク(コピーライター)

チーズを半分に割られたから
▼泣いている理由:「チーズを半分に割られたから」
▼書籍『うちの子が泣いてるワケ』には、他にも「親父のケータイを食べられなかったから」「家で雨が降ってなかったから」など驚愕の理由と爆笑泣き顔フォトが100枚以上収録!

 ある日、幼い息子二人と博物館へ行ったときのこと。

 ほっと一息ついて「さあ、チーズでも食べようか」と袋を開けたら、最後の一ピースでした。

「オーケー、じゃあ二人で分けるんだよ。いいね?」

 わかった! と頷いたので、私がチーズを半分に割った瞬間、上の子の方の涙腺が崩壊しました(左ページ写真)。「やっぱりオレが独り占めしたかったー!」というわけです。

 私はあまりに面白くてその写真を撮り、友人の勧めもあって息子たちの泣き顔写真をブログに投稿し始めました。

 するとそれが瞬く間に拡散され、世界中から大量の子どもの泣き顔写真が送られてきたのです。本書では、その中から特にキュートで、笑える写真を厳選して収録しました。

 今も毎日数えきれないほどの写真が私のもとに届きますが、子どもの泣き顔は世界共通、国の違いはないと感じます。

 例えば、以前アメリカから来たのは、「コーヒーをこぼさせてもらえなかったから」という理由の泣き顔写真。その後、日本から「お茶をこぼさせてもらえなかったから」という写真が送られてきました(笑)。

 子どもたちは一見このように理解不能な理由で泣きますが、彼らなりに「あれをしたい」「こうしなきゃ」という日々の計画を持っています。ただ、それを言葉にして親に伝えることができない。だから泣きわめく。子どもたちにとって泣くことは唯一のコミュニケーション手段なんです。

 でも残念ながら、親はそれを理解することができません。「子どもが泣くのは私のせい?」と自分を責める人もいるでしょう。読者から「泣いてるのはうちの子だけじゃないと思ったらホッとしました」というメールを頂きましたが、それを見た私も共感を得られてホッとしました(笑)。

 共感して頂けたもう一つの理由として“SNS疲れ”があるかもしれません。今、フェイスブックなどのSNSが広まる中で、「完璧な生活をしなければいけない」というプレッシャーが以前より高まってきていると感じます。例えばSNSに旅行の写真を投稿するにしても、「友だちに見られるんだから最高の一枚をセレクトしなければ!」という心理的圧迫を感じてしまう方もいるでしょう。

 実際、私たちの生活はそう素敵なことばかりではありません。私の生活にしても育児は思うようにいかないし、ストレスだらけ。そんな時に友人たちのポジティブな投稿を見て、逆にストレスを感じてしまうこともあります。

 そんな“SNS疲れ”の方が多くなっているからこそ、子どもたちの素敵な笑顔ではなく、泣き顔という“完璧じゃない”写真に、皆さんホッとできたのではないでしょうか。

 もっとも、私自身は安心してばかりもいられません。だって先日、こんな涙の理由が送られてきたんですから!

『うちの子が泣いてるワケ』を、二つに引き裂くことができなくて泣いた
 ……泣きたいのはこっちだぜ!(談)

新潮社 波
2015年4月号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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