『芸人迷子』
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漫才コンビのヒリヒリする解散までの一部始終
[レビュアー] 立川談四楼(落語家)
ハリガネロックという漫才が解散し、その一人のユウキロックがメールマガジン『水道橋博士のメルマ旬報』に連載を持っているのは知っていた。読者ではなかったが、単行本化を前提の執筆だろうと当たりをつけ、その日を待った。
案の定、紙の本として出版され、一読、驚いた。そこにはヒリヒリする文章が延々と綴られていたのだ。相方に容赦ない言葉がぶつけられる。そして自らには更に厳しい言葉が。一体このコンビに何が起こったのか。
ハリガネロックは安定しているように見えた。とんがった著者を相方の大上邦博が中和しているバランスのいいコンビだと認識していた。レギュラー番組も持ち、中堅の位置を占め、私には順調に思えたが、著者は新しい漫才を構築できないことに悩み、苛立っていた。そしてすべてを失うことを予感し、怯えていたのだ。
芸人として他人事ではないが、漫才と落語の違いを意識しつつ読み進む。落語家も漫才師も司会、役者等、何をやってもいいと言われる。煮詰まったら本業に戻ればいいと。しかし戻った時、漫才には相方がいるのだ。いざという時、その相方との間に温度差があったら……。
デビューから解散までの20年間の、いいことも悪いこともすべてが語られる。何もかも晒そうという著者の覚悟がヒシヒシと伝わり、息苦しくなる。もう少し能天気に考えてもいいのではないか、もっとラフに世渡りしてもいいのではないかとの感想を持つ読者もいようが、著者にそれはできない。漫才という芸に真正面から勝負を挑み、高らかに敗北宣言をした男の姿があるのみなのだ。
吉本のシステムに、スクール制ではなく徒弟制が存続していたらということを考えた。師匠という相談相手のことだが、それも詮ないことだ。
著者は一人になった。これを書いたことでフッ切れもしただろう。さあ彼は後半生をどう生きるのか。