ちょっとグロテスク、でも才気に舌を巻く3冊 「ファイナルガール」ほか

レビュー

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  • ファイナルガール
  • 人形
  • 変愛小説集

書籍情報:版元ドットコム

ちょっとグロテスク でも才気に舌を巻く3冊

[レビュアー] 瀧井朝世(ライター)

 毒とユーモア、狂気と才気、切実と脱力が溶け合う作家・藤野可織の世界。短篇集『ファイナルガール』でもその魅力が炸裂する。十七歳の夏からずっと、携帯に電話をかけてくるだけのストーカーにつきまとわれる女性の顛末を描いた「去勢」、ビルの屋上から室内に戻れなくなった男女が俳優について語りあう「プファイフェンベルガー」など七篇。表題作のタイトルは次々に人が惨殺されるホラー映画などでよく見られる、最後まで生き残る役割の女性のこと。連続殺人鬼と対決して死んだ母を持つリサは、十八歳の夏休みに大勢と行った森のキャンプ場で殺人鬼に遭遇、自分の運命に気づく……。芥川賞作家の手により、荒唐無稽な展開も高潔さをまとって結実していく。

 彼女の世界にも通じる、戦慄の光景が楽しめるのが名作『レベッカ』で知られるダフネ・デュ・モーリアの初期作品を集めた『人形 デュ・モーリア傑作集』(務台夏子訳 創元推理文庫)。表題作はとある手記の内容という体裁だ。書き手の“僕”は知人のスタジオで出会ったハンガリー出身のバイオリン奏者の女性に一目惚れ。だが、親密になっていった果てに、“僕”は彼女に関する恐ろしい秘密を知ってしまう。解説によれば著者はこの短篇をデビュー前の二十一歳の時に執筆したそうだが、恋の高揚感から終盤のグロテスクな描写の生々しさまで、表現の豊かさに舌を巻く(もちろん翻訳者の力もある)。

 この二冊が好みの読者ならすでにご存知だろう、と言いたくなるのは岸本佐知子編訳のアンソロジー『変愛(ヘンアイ)小説集』(講談社文庫)。愛にまつわる話ではあるものの、〈普通の恋愛小説の基準からはかなりはずれた、グロテスクだったり極端だったり変てこだったりする物語〉である十一篇が並んでいる。アリ・スミスの「五月」では女性が木に恋を、ニコルソン・ベイカーの「柿右衛門の器」では英国磁器を愛する夫人のある企みが明かされる。それにしても、この三冊を読むと、奇怪で無謀な愛ほどピュアに思えてくるのだから人間はやっかいだ。

新潮社 週刊新潮
2017年2月9日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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