明文堂書店石川松任店「驚きに満ちた、怖くて美しい幻想譚!」【書店員レビュー】

レビュー

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無貌の神

『無貌の神』

著者
恒川 光太郎 [著]
出版社
KADOKAWA
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784041052693
発売日
2017/01/28
価格
1,728円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

明文堂書店石川松任店「驚きに満ちた、怖くて美しい幻想譚!」【書店員レビュー】

[レビュアー] 明文堂書店石川松任店(書店員)

 世界から見捨てられたような小さな集落に存在していたのは、傷を癒す力を持つ《顔のない神》だった。その集落でアンナと同じ屋根の下で暮らす子供の《私》はある日、怪我をした住人が《顔のない神》の坐する古寺に向かうのを見掛ける。傷が癒えるところを見物しようと住人の跡を追った《私》が眼にしたのは、《顔のない神》が人間を喰う光景だった……「無貌の神」
 時は大正、十二歳の少女フジは若者に殺されそうになったのを返り討ちにしたのが切っ掛けで、その若者から死神と呼ばれた中年の男に拾われる。時影と名乗る男がフジに命じたのは、七十七人の人間を殺すことだった……「死神と旅する女」
 水たまりにその姿さえ映らず他人からも認識されない《私》は、自身を《風人》と名付けた。そんな《私》を認識することのできる少年の裕也は、父親が東京で罪を犯したのが切っ掛けで東京の小学校から転校してきていた(この土地に流れてきたのには、紆余曲折があるらしい)。《東京君》といじめられている少年との友情を深めていく《私》に明かされる《風人》の意外な真実……「廃墟団地の風人」。本書は恐怖とともに切ない余韻も魅力的な幻想ホラー(ミステリやSFの色合いが強いものもあります)の短編が六篇収められている。
 それまで見ていた世界と異なるもうひとつの世界が違和感を抱かせることなく、自然に、そっと顔を覗かせる。その作品世界の多様さに、読者は当てもない旅をしているような気分に浸れるだろう。目的も無く彷徨う旅は不安ではあるが、同時に未知なものに触れ得る快感と感動に満ちている。そして恐怖と美しさが入り混じった幻想的なそれらの世界の中には、驚きがある。その驚きが本書の独創性を強めているように感じられた。
『夜市』『草祭』『竜が最後に帰る場所』……独特な雰囲気と意外性を持つ著者の作品は癖になります。本書が気に入った方は、他の作品も、きっと気に入ると思います。

トーハン e-hon
2017年2月12日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

トーハン

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