立川+忍者+アイドルのドタバタ青春ラブコメ

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立川忍びより

『立川忍びより』

著者
仁木 英之 [著]
出版社
KADOKAWA
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784041049815
発売日
2017/02/25
価格
1,404円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

立川+忍者+アイドルのドタバタ青春ラブコメ

[レビュアー] 大森望(翻訳家・評論家)

 立川と忍者と地下アイドル。これで三題噺をつくれと言われても途方に暮れそうだが、この困難な課題(?)をみごとクリアしたのが、『僕僕先生』シリーズでおなじみ、仁木英之の新作長編『立川忍びより』。一気に読める軽快な青春ラブコメ忍者アクション(なんだそりゃ!?)である。

 舞台は、新宿から中央線特快で西へ二十七分のJR立川駅を中心に広がる一大都市、東京都立川市。主人公の大倉多聞は、心のバランスを崩して勤務先のブラック企業を辞め、立川駅の南側にある実家の中華料理店・北京楼の二階で暮らしている。そんなとき降って湧いたのが、父親の入院と多聞の縁談。店には祖父の代から大きな借金があり、その返済を待ってもらうには、多聞の婿入りが条件だという。相手は、小・中学校の同級生だった藤林三太の妹で、まだ高校生の藤林杏子。いやいやながら見合い会場のホテルに出向いた多聞は、藤林家当主の源吾に認められて第一関門を突破。杏子との相性を確かめるため、立川市北部の高級住宅街にある邸宅に住み込むことになる。だがそこは、至るところにトラップが仕掛けられた恐るべき忍者屋敷だった。自家用車は、山王丸という名の巨大蛙(走行時はトヨタのセダンに化ける)。藤林家は、伊賀の流れを汲む、由緒正しい忍びの一族だったのである。

 かくして、気弱な青年・多聞は、JK忍者の婚約者として同じ部屋(の押し入れ)で寝起きし、杏子の母親(黒装束で神出鬼没の謎の女)にこき使われる羽目に……。

 というわけで、話の趣向はさしずめ『うる星やつら』+『さすがの猿飛』か。「影働きは影を求めて世界をさまよう。影あるところに忍びあり」とか言われると、なんとなくそんなもんかなと思えてくるから不思議。『ニンジャスレイヤー』なんかと比べたらぜんぜんふつうの日常です。

 藤林家の長男の三太は、当然(源吾や杏子と同じく)忍術の使い手だが、立川を拠点に活動するソロアイドル「あぷりことはむ」の熱狂的な〝バタリオン〟(ファン)。〝閲兵式〟と呼ばれる彼女のライブが要所要所にはさまれて、小説の見せ場になる。

 忍者とアイドルがどうして結びつくのかと思う人もいるでしょうが、どっちも日本の名産だから、くっついて当然。実際、いま現在も、ハロー!プロジェクト所属のアイドルグループ、こぶしファクトリーが主演する舞台「JKニンジャガールズ」が上演中で(三月四日まで。夏には劇場映画版も公開予定)、意外と鉄板の組み合わせなのである。

 しかも、立川と言えばアイドルの聖地。立川南駅に直結する大型商業施設アレアレアではしじゅうアイドルのライブをやってるし、その広報ユニットとして結成された立川発のローカルアイドル、アレアガールズも活動中。作中では、すずらん通りのライブハウス「BABEL」を(たぶん)モデルにした「ガベル」が「ことはむ」の閲兵式の会場になったり、たましんRISURUホール(立川市市民会館/キャパ一二〇一席)でのソロライブが目標になったり、このへんの立川ローカルなディテールが、ファンタジーと現実の狭間の絶妙な空気感を醸し出してます。

 中盤では、多聞と三太が立川の大食い文化を守るために立ち上がるエピソードが挿入されるんですが、そっちでは、デカ盛りランチで有名な居酒屋「ひなたかなた」を(たぶん)モデルにした定食屋「そなたこなた」が登場。読んでいると、本書を片手に聖地巡礼に出かけたくなる。ちなみにこれは、『有頂天家族』をはじめとする森見登美彦の現代京都ファンタジーと同じ構造。エブリデイ・マジックなどと呼ばれるジャンルですが、ゆるくて心地いい仁木英之の作風とはベストマッチかもしれない。これ一冊で終わるのはいかにももったいないので、ぜひ、立川忍者小説のシリーズ化に期待したい。

KADOKAWA 本の旅人
2017年3月号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

KADOKAWA

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