「働く青年」と教養の戦後史 福間良明 著

レビュー

6
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「働く青年」と教養の戦後史

『「働く青年」と教養の戦後史』

著者
福間 良明 [著]
出版社
筑摩書房
ジャンル
歴史・地理/日本歴史
ISBN
9784480016485
発売日
2017/02/13
価格
1,944円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

「働く青年」と教養の戦後史 福間良明 著

[レビュアー] 橋本健二(早稲田大教授)

◆格差克服への熱意支える

 高度成長期に集団就職した若者たちについてはいろいろ調べてきたつもりだが、こんな雑誌の存在は知らなかった。「人生雑誌」と総称され若者たちが愛読した、何種類かの雑誌である。

 熱心な読者となったのは、勉強ができたにもかかわらず、経済的事情から進学を果たせず、中学卒で就職した若者たち。記事には哲学や文学、そして貧困や労働問題を論じるものが多かった。読者からは体験や思いを綴(つづ)った手記、小説や詩などが多数投稿され、編集部が選別して掲載した。掲載倍率は、ときには百倍にも達したという。

 読者の熱意を支えたのは、家が貧しいために「就職組」となった悔しさだった。読者は知識階級に対して憧れと憎悪の入り交じった思いを抱き、自力で教養を身につけて対等になろうとした。投稿が掲載されると自分に誇りを抱くことができた。そうでなくても、自分と同様に底辺で働き、同じように悩む仲間の存在を知ることができた。読者会も全国に組織された。雑誌の人気は、豊かになって高校進学率が上昇した一九六〇年代半ばまで続いた。

 これまで労働者の文化運動についての研究はあったけれど、こんな雑誌に焦点を当てた研究はおそらく初めてだろう。高度成長を底辺で支えた若者たちの文化の知られざる側面に光を当てていて、読み物としても面白い。

 著者によると、人生雑誌は戦後の格差社会が生み出したメディアである。それは最下層に位置する若者たちに熱く支持され、自分たちの置かれた状況を見つめ、社会の歪(ひず)みを直視させる契機になっていた、という。

 それならば現代の格差社会は、どのようなメディアを生み出しているのか。大学に進学できなかった、あるいは安定した職を得ることができなかった貧しい若者たちのための、批判的で健全なメディアが、なぜ育たないのだろう。若者の貧困を克服するためには、当事者たちを横につなぐメディアが不可欠なはずなのだが。
 (筑摩選書・1944円)

 <ふくま・よしあき> 1969年生まれ。立命館大教授。著書『「聖戦」の残像』など。

◆もう1冊 

 佐藤卓己著『青年の主張』(河出ブックス)。毎年「成人の日」に放送されてきたNHKの国民的番組を総括した戦後メディア史。

中日新聞 東京新聞
2017年5月14日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

中日新聞 東京新聞

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