亡き人との物語を紡ぎ直す

レビュー

8
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魂でもいいから、そばにいて

『魂でもいいから、そばにいて』

著者
奥野 修司 [著]
出版社
新潮社
ジャンル
文学/日本文学、評論、随筆、その他
ISBN
9784104049028
発売日
2017/02/28
価格
1,512円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

亡き人との物語を紡ぎ直す

[レビュアー] 佐久間文子(文芸ジャーナリスト)

 ともすれば切り離されがちな被災地と、こういう形でつながることができるのかと、この本を読んで思った。「亡き人との再会」という、科学では証明できない不思議な体験について聞き取りを重ねて書かれた本書は二月の発売以来、版を重ねており、口に出すことができなかった彼らの思いに共感する人は想像以上に多いのかもしれない。

 一万八千人もの死者・行方不明者が出た東日本大震災の後、くり返し被災地に足を運んできた著者は、いつしかこうした霊的な体験について耳にするようになる。その人にとってはたしかなことであっても再現性はなく検証も不可能で、ノンフィクションとして取り上げるにはきわめて難しい題材だが、「きちんと聞き取りをしたほうがいい」という知人の医師の言葉に促されて、三年半近く、聞き取りを続けることになった。

 どうにか探し当てた語り手一人につき最低でも三回会う、というのが、著者の設けたルールである。話が虚偽かどうか感じとるために考えたものだったが、くり返し会うことで、取材を受ける人たちは次第に心を開いてくれるようになった。自分の話を信じてもらえるのか不安でそれまで誰にもしゃべれなかった、ということもあるし、話を聞いてもらう機会自体なかなかない孤独な環境に遺族が置かれていた、ということでもある。

“再会”のありようはさまざまだ。亡くなった夫や祖母がリアルな夢に現れた、というもの。通じないはずの携帯に相手が出たり、メールが届いたりした、というもの。スイッチを入れないのに、子供の好きだった鉄道のおもちゃが動いた、という人もいる。同じ時刻に亡き人が夢に現れるなど、複数の人が共通の体験をしていることもある。この本には入れられていないが、幽霊に遭ったという体験は、本書のテーマである亡き家族との再会以上に多く聞かれるそうだ。

 阪神大震災のときは、これほど霊的体験についての話は聞かれなかったという。『遠野物語』を生み、いまも「オガミサマ」という霊媒を信じる人の多い、東北という土地柄もあるのかもしれない。なぜこういう体験をする人が多いのか、合理的に説明することはできないが、著者に取材をすすめた医師の言葉を借りると、理不尽な悲劇に直面したときに現れる「人間が持つ内的自然、集合的無意識の力」というものかもしれない。

 それは「悲しみを受け入れるためではない」と著者は書く。「むしろ大切なあの人との別れを認めず、姿は消えたがその存在を感じつつ、忘れることを拒否する自分を受け入れるためのように思う」。亡き人との物語を紡ぎ直して、残された人はその後の人生を生きる。本が出た後も、著者は聞き取りを続けるという。

新潮社 新潮45
2017年5月号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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