『にっぽん猫島紀行』
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<東北の本棚>特別な存在意識に刻む
[レビュアー] 河北新報
北海道から沖縄まで、少子高齢化が進む島々こそ猫にとってのパラダイス。ノンフィクションライターの著者が、10の猫島を訪ね、猫と人々の暮らしの実像を記した。
石巻市の田代島は、元祖・猫島だ。東日本大震災の5年ほど前から猫がたくさんいると話題になり、年間1万人を超える観光客が訪れていた。
震災で島全体が大きな被害を受け、主要産業の漁業も大打撃を受けた。猫はどうだったのか。島の人は、人間と一緒に高台や山奥に逃げて無事だったと言う。復旧工事が続く港で、定期船が着く度に観光客がくれるエサを目当てに、あちこちから猫が寄ってくる。観光客は来るときには来る。今も人気は衰えていないという。
島には通称「猫神社」がある。江戸時代後期、大規模な定置網漁、大謀網が盛んになり、各地から集まった漁師たちが猫をかわいがった。ある日、漁に使う岩が当たり1匹の猫が重傷を負った。網元は心を痛め、安全と大漁を祈願して猫をまつるほこらを作ったというのが由来だ。「犬を上陸させてはならない」との言い伝えや猫にまつわる怪談、猫が招いた幸福の話もある。
今、島の全戸数の半分以上にあたる約20軒が飼い猫ではない猫たちの面倒も見ているという。猫は特別な存在として、島の歴史とともに、人々の意識に刻まれ続けてきたのである。
著者は「昔のままの猫の不思議な力を感じることができるのは、今では世界でこの島だけかもしれない」と結ぶ。猫好きでなくても、島を訪れたくなる。
著者は1967年広島県生まれ。月刊「ねこ新聞」に猫エッセーを連載中。
イースト・プレス03(5213)4700=930円。