施策の新たな可能性を示す 母子家庭の貧困率が世界で最も高い日本

レビュー

  • シェア
  • ポスト
  • ブックマーク

母子世帯の居住貧困

『母子世帯の居住貧困』

著者
葛西, リサ, 1975-
出版社
日本経済評論社
ISBN
9784818824676
価格
3,190円(税込)

書籍情報:openBD

施策の新たな可能性を示す 母子家庭の貧困率が世界で最も高い日本

[レビュアー] 生田武志(野宿者ネットワーク代表・社会運動家)

 母子家庭の住まいの問題に関心を持った学生が、DVシェルターに行けば「生の声」を聞けると考えて調査協力を求め、DV被害者の住宅さがしを手伝うことになった。仕事も貯金もない女性たちの多くは、加害者の襲撃を恐れながら不動産屋を回るが、しばしば邪険に扱われ、惨めになるような物件しか紹介されない。ある日、同行した親子は行き場を失って泣き始める。一緒に涙を流す学生に、女性はすがるように「偉くなって、私たちのような親子が救われるような世の中にして」と言う。「理不尽な状態に置かれている女性たちの声を集めて公にしようと心に決めた瞬間だった」。この決心が、15年を経て「母子世帯の居住貧困」を網羅的に示し、母子施策の新たな可能性を示す本書にまとめられた。
 従来、母子世帯の住宅事情の調査には断片的なものしかなかった。著者は全国のDVシェルターや母子生活支援施設や婦人保護施設への調査、当事者、支援者へのアンケート、ヒアリングなどから「母子世帯の居住貧困」の全体像をまとめあげている。
 母子世帯になったとき、行政には、古くて狭く、規則も厳しい母子生活支援施設しか支援策がないことが多い。公営住宅優先入居制度や母子寡婦福祉資金はあるが、当事者によれば「どの制度も利用できないじゃないですか。簡単にお金を貸してくれる消費者金融とかに手を出す人の気持ちがよくわかった」。そして、日本の母子家庭の就労率は高い一方、貧困率は世界で最も高い。こどもの病気やケガへの対応、保育所の開所時間などを考えると、親が非正規でしか働けないからだ。その中で家賃負担は異常に大きく、たとえば大阪府の収入100万円未満の母子世帯は、実に収入の48・3%を家賃に費やしている。
 著者は、こうした世帯への行政による「家賃補助」の必要性を強調している。しかし、住居が保障されても、保育所の送迎、通勤時間、親が体調を崩したときなどの問題が保障されない限り、ひとり親家庭の生活は成り立たない。標準世帯を前提にした日本のセーフティネットの多くは、ひとり親世帯には役に立たないのだ。
 本書は、解決の一つとなる先駆的な「母子世帯向けシェアハウス」をいくつか紹介している。たとえば、単身者と母子家庭が暮らすシェアハウスでは、単身者が母親の不在時に子育てを手伝う一方、単身者も体調の悪いときに母子から看病される。ここでは「同居する非血縁者が支え合う」という新たな家族像が示されている。
 本書は、ひとり親世帯の居住貧困は就労、子育て、医療などと一体的に解決しなければならないということを示している。父子家庭の父親が言うように、「国に望むことは、適正な労働環境と、子どもを育てながら働くこと許してくれる社会です」。ひとり親世帯への社会政策や民間支援は、ここで明らかにされた事実から出発する必要があるだろう。

週刊読書人
2017年6月30日(第3196号) 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読書人

  • シェア
  • ポスト
  • ブックマーク