『ゴーストマン 消滅遊戯』
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急逝した若き天才の傑作ノワール『ゴーストマン 消滅遊戯』ロジャー・ホッブズ
[レビュアー] 西上心太(文芸評論家)
密輸船を南シナ海で待ち伏せしてハイジャックし、上質のサファイアを強奪する。その計画を立てたのはゴーストマンの「私」を一から仕込んだアンジェラだった。だが密輸船にはもっと価値のある積み荷があった。それを発見した襲撃役のパクは、仲間を殺し密輸船で逃亡する。だが別の男がそちらの積み荷を狙っていたのだ。マカオのホテルでパクを待っていたアンジェラに届いたのは、一粒のサファイアとパクの生首だった。
アメリカのカジノにいた「私」に、救いを求めるアンジェラからの秘密メールが届いた。失敗した強奪計画から互いに逃亡して六年。師匠であり、自分の素性を知るただ一人の人物で、「私」が最も会いたい女性。「私」は罠の危険も顧みずマカオへと向かう。
二〇一三年に『ゴーストマン時限紙幣』(訳書は翌年刊)で鮮烈なデビューを飾ったロジャー・ホッブズの第二長編である。
ゴーストマンとは外見を変える変装だけでなく、姿勢や態度など内面の変化で違うキャラクターになりすまし、犯罪の痕跡を消して逃亡することに長(た)けた犯罪プロフェッショナルである。今回の「私」は、事前の準備もなく不慣れな土地で、予想外の事態に立ち向かうことになる。冒頭の襲撃シーンから山場の連続でページを繰る手が止まらない。「私」以上にクールで強(したた)かなアンジェラはあらゆるクライムノベルの中で最高の女性キャラクターではなかろうか。原題にある“Games”には獲物という意味もある。謎の殺し屋に中国マフィア。完全アウェーの土地で獲物にされた二人の反撃が読みどころ。
だがこの若き天才は昨年、薬物のオーバードーズで急逝。ああ、なんということだ!