“音楽を大衆化”した山本直純、“大衆を音楽化”した小澤征爾

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山本直純と小澤征爾

『山本直純と小澤征爾』

著者
柴田 克彦 [著]
出版社
朝日新聞出版
ジャンル
文学/日本文学、評論、随筆、その他
ISBN
9784022737328
発売日
2017/09/13
価格
858円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

天才は天才を知る!二人の音楽家の深い友情

[レビュアー] 碓井広義(メディア文化評論家)

 柴田克彦著『山本直純と小澤征爾』の序には、『オーケストラがやって来た』のプロデューサー、萩元晴彦の名言が記されている。「直純は音楽を大衆化し、小澤は大衆を音楽化した」。

 2人とも「サイトウ・キネン・オーケストラ」に名を残す齋藤秀雄の門下生だ。一見対照的な彼らは修業時代から深い友情で結ばれ、互いに尊敬しあっていた。著者は、世界のオザワに「本当に直純さんにはかなわない」と言わせた音楽家にスポットを当てていく。

 若い頃から指揮者として、また作曲家として活躍していた山本だが、顔と名前が広く知られるようになるのは1968年、チョコレートのCMがきっかけだ。気球に乗り、真っ赤なジャケットで指揮をする姿には、「大きいことは、いいことだ!」というCMソング以上のインパクトがあった。

 驚くべきは山本が手がけた仕事量と質の高さだ。指揮者の仕事と同時並行で、『男はつらいよ』などの映画音楽、『8時だョ!全員集合』をはじめとするテレビ番組のテーマ曲を作り、『オケ来た』にも出演。しかし、その過剰なほど幅広い活動ゆえに、クラシック界ではどこか異端視されていたと著者は言う。

 山本が69歳で亡くなったのは、小澤との出会いから約半世紀後の2002年6月だ。若き日の山本は小澤にこう言った。「オレはその底辺を広げる仕事をするから、お前はヨーロッパへ行って頂点を目指せ」と。2人の天才は、まさにそれを実践したのである。

新潮社 週刊新潮
2017年10月19日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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