「宇宙戦艦ヤマト」内幕 プロデューサーの“私物化”も…

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「宇宙戦艦ヤマト」の真実

『「宇宙戦艦ヤマト」の真実』

著者
豊田有恒 [著]
出版社
祥伝社
ISBN
9784396115180
発売日
2017/10/01
価格
858円(税込)

あの大ヒット作とその裏の人間模様

[レビュアー] 碓井広義(メディア文化評論家)

 1974年の放送以来、何度も劇場版が制作され、日本を代表するアニメの一つとなった『宇宙戦艦ヤマト』。SF作家である豊田有恒は、この作品に企画段階から関わっていた。『「宇宙戦艦ヤマト」の真実』は、貴重な誕生秘話から制作の内幕までを明かす回想記だ。

 ある日、仕事仲間から「本格的なSFアニメをやりたいプロデューサー」に会って欲しいと頼まれる。それが西崎義展との出会いだった。著者は、「原案」のクレジットを入れるという口約束を信じて、「設定」を考える役目を引き受ける。

 本書で興味深いのが、『ヤマト』の物語構造が作られていくプロセスだ。著者は影響を受けたものとして、アメリカのSF作家、ロバート・A・ハインラインの『地球脱出』と、中国の伝奇小説『西遊記』を挙げる。またアレキサンダー大王の名が由来となる「イスカンダル」や、宇宙空間を一気に飛び越える「ワープ航法」など、著者ならではのアイデアを開陳。ただし、海底に眠る戦艦大和を用いることを言い出したのは漫画家の松本零士だそうだ。

 一方、『ヤマト』がヒットしていく中で、西崎による“私物化”が進んでいく。著者が「クリエーターの生き血を吸う吸血鬼のような正体」と言う、この毀誉褒貶の激しいプロデューサーの実像が当事者によって語られたという意味で、本書は画期的な一冊かもしれない。ちなみに西崎は7年前、自身の会社が所有する船「YAMATO」から転落し、75歳で没している。

新潮社 週刊新潮
2017年11月16日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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