『構造素子』
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『コルヌトピア』
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[本の森 SF・ファンタジー]『構造素子』樋口恭介/『コルヌトピア』津久井五月
[レビュアー] 石井千湖(書評家)
言語化できないことに言葉でアプローチしていて、難解だがエモい。第五回ハヤカワSFコンテスト大賞受賞作の樋口恭介『構造素子』(早川書房)は、生まれなかった子供と生まれた子供、書かれた物語と書かれたかもしれない物語の話。
〈L8〉と呼ばれる現実において、エドガーの父でSF作家のダニエルが亡くなる。若くしてデビューしたがときどき雑誌に短編が載るくらいで全く売れず、一冊も単著を出したことがなかったダニエルは、大量の草稿を遺していた。エドガーは草稿を読みながら過去の記憶をたどり、父の物語に自分の言葉を書き加える。
〈L7〉は記述された物語の世界だ。流産で子供を失ったダニエルと妻のラブレスは、エドガー001という人工意識を作る。エドガー001はシステムのなかで自己増殖し、無数の物語を生みだしていく。
さまざまな形で繰り返し思い出される雪の風景が美しい。例えば、幼いころのエドガーが父と橇(そり)に乗っていて〈目の中にたくさんの光の粒子が入り込んでくる〉ところ。雪だるまを作っていた父がエドガーに〈雪の結晶はそれぞれ一つひとつが別々の世界を持っていて、宇宙を持っているんだ〉と言うくだりもときめいた。
巻末に収録された「梗概」を参照するとわかりやすいと思うが、なにがなんだかわからないまま手探りで読み進めるのも楽しい。言葉だけで、いまだ見たことのない宇宙に連れて行ってくれる。
『構造素子』と同時にハヤカワSFコンテスト大賞を受賞したのが、津久井五月『コルヌトピア』(早川書房)。こちらも未知のヴィジョンを見せてくれる。
舞台は生きた植物の全身の細胞で情報を読み書きできる技術〈フロラ〉が開発された未来。二十三区全体をすっぽりと内包する巨大環状緑地帯〈グリーンベルト〉は、都市基幹フロラとして東京に莫大な計算資源を提供していた。ところが、グリーンベルトで立て続けにトラブルが発生。フロラのシステム開発・設計・運用改善を請け負う会社に勤める砂山は、事故調査のために植物学者のヒタキを訪ねるが……。
砂山がうなじにつけた〈角〉でフロラに接続し、ランドスケープをレンダリング(描出)する場面は鮮烈。人間と植物とがつながったら、こんな世界が見えるのかもしれない、というリアリティがある。またフロラ技術を適用できない異端植物が存在するところも面白い。端正な文章で描写された〈超高層樹林などとも形容される西新宿の高層オフィスビル群〉の風景も圧巻。
実在する東京という都市の、意外に緑が多い景観に対する愛を感じる。もっとこの世界の話が読みたくなった。
樋口さんも津久井さんもまだ二十代。今後の活躍に期待大、だ。