[本の森 ホラー・ミステリ]『それまでの明日』原りょう/『編集長の条件 醍醐真司の博覧推理ファイル』長崎尚志/『オーパーツ 死を招く至宝』蒼井碧

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[本の森 ホラー・ミステリ]『それまでの明日』原りょう/『編集長の条件 醍醐真司の博覧推理ファイル』長崎尚志/『オーパーツ 死を招く至宝』蒼井碧

[レビュアー] 村上貴史(書評家)

 原りょうの新作『それまでの明日』(早川書房)である。《沢崎》シリーズの一四年ぶりの第六作は、デビュー作『そして夜は甦る』や直木賞受賞作『私が殺した少女』を凌ぐほどの一冊だった。

 物語は、渡辺探偵事務所の私立探偵である沢崎が、赤坂の料亭の女将の身辺調査という依頼を望月皓一と名乗る紳士から受けるところから始まる。贔屓目かもしれないが、もうこの場面だけで嬉しくなる。沢崎の口調や依頼人との会話の流れが素敵であるし、さらに、依頼人が語る渡辺探偵事務所を選んだ理由も印象深いのだ。そんな“名場面”からの展開が、また想定外である。調査対象の女将が半年も前に亡くなっていたり、それを望月に告げようとして沢崎が強盗の人質になってしまったりするのだ。そんな起伏に富んだ物語のなかで、原りょうはしっかりと関係者の人となりを描ききる。亡くなった女将の凛とした接客や、彼女と縁のあった画家の才能と矜持などが沢崎の調査を通じて浮かび上がり、さらに、組員の人情や紳士の狡さなども見えてくる。同じく人質となった縁で沢崎と行動を共にする青年の造形もまた絶妙。人間関係を巧みに編み上げた事件の真相を堪能し、こんな原りょうに再会できて大満足と思っていたらば、最後の最後に超弩級の衝撃が襲ってきた。本書が明確に現代ミステリであることを象徴する一撃であった。感服。

『編集長の条件 醍醐真司の博覧推理ファイル』(新潮社)は、漫画の編集者や原作者として、浦沢直樹とともに『MASTERキートン』などの大ヒット作を放ってきた長崎尚志が、漫画編集者の醍醐真司を主役に描くミステリの第三作だ。南部という伝説的なマンガ編集者が、ジリ貧の漫画雑誌を復活させる画期的な案を得たといいつつ、その詳細を語らぬまま変死した事件を扱った本書は、漫画原稿の用紙サイズや、四隅の状態に着目して推理を進めるという、漫画を知悉した著者ならではの展開でゾクゾクとさせられた。南部のアイディアを巡る推理も刺激的だし、変死に関する推理も、人の心を奥底まで掘り下げていて胸に響く。そればかりではない。醍醐の調査のなかで昭和のあの大事件が姿を現すのだ。長崎尚志なりの解釈が古い漫画に重ねられて語られる場面は、語り口が異様な熱気を帯びており忘れがたい。長崎なりの解釈も興味深く、しかもそれが変死した南部の心と重なってくるのだから堪らない。

 最後に『このミステリーがすごい!』大賞の大賞受賞作『オーパーツ 死を招く至宝』(宝島社)について一言。トンチとパンチが効いた本格ミステリ作品集で、当時は制作不能だったはずの古代の工芸品がモチーフだ。第一話での密室の十三髑髏の処理などもう最高。これだけの爆発力を備えた蒼井碧という才能から目を離すなかれ。

新潮社 小説新潮
2018年4月号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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