【ニューエンタメ書評】鳴神響一『脳科学捜査官 真田夏希』、太田忠司『万屋大悟のマシュマロな事件簿』ほか

レビュー

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  • 森家の討ち入り
  • それは宇宙人のしわざです : 竜胆くんのミステリーファイル
  • 脳科学捜査官 真田夏希
  • 万屋大悟のマシュマロな事件簿
  • オーパーツ 死を招く至宝

書籍情報:版元ドットコム

ニューエンタメ書評

[レビュアー] 細谷正充(文芸評論家)

本格的な寒さを迎えはじめました。今年は寒くなりそうなので、家でゆっくり読書もおすすめです。
今回はバラエティーあふれる9作品をご紹介。寒い冬を乗り越えましょう!

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 歴史・時代物ファンの年末のお楽しみといえば“忠臣蔵”である。昔ほどの賑わいはないが、それでも赤穂四十七士の討ち入りの時期には、忠臣蔵を題材にした小説や映像作品が発表される。まさに、日本の年末の風物詩なのだ。

 しかしそれだけに忠臣蔵は、の付きまくった題材になっている。新たな切り口を発見するのも困難ではないかと思っていたが、そんなことはなかった。諸田玲子の『森家の討ち入り』(講談社)は、いままでになかった角度から忠臣蔵を捉えた意欲作なのである。

 本書は全五話で構成されている。赤穂四十七士には、隣国・津山森家の旧臣が、なんと三人も加わっていた。神崎与五郎・茅野和助・横川勘平だ。吉良家討ち入り後に、この事実を知った森家の当主の長直は、かすかな疑問を抱きながら、三人のために心づくしの饅頭を届けようとする。

 この「長直の饅頭」をプロローグとして、三人のドラマがられていく。留意すべきは、一話ごとに、時間軸がさかのぼることだろう。どんどん過去に戻ることによって、物語の焦点が忠臣蔵から、森家のお家騒動へ移行していくのだ。各ストーリーによって、三人が討ち入りに参加した心情が見えてくる。実にテクニカルな手法が使用されているのだ。

 さらにエピローグとなる「お道の塩」で、森家の物語と忠臣蔵が融合し、味わい深いラストを迎える。作家の卓抜した技量が堪能できる、新たなる忠臣蔵だ。

 葉山透の『それは宇宙人のしわざです』(幻冬舎)は、奇矯な天才高校生が名探偵役を務める、連作ミステリーだ。霊力や法力がゼロの青年が、現代科学と論理的思考によって、妖怪や怪異に立ち向かう「0能者ミナト」シリーズで、ミステリー的な手法を活用していた作者が、ついに本格的にミステリーに乗り出してくれたのである。

 物語の語り手は、老舗ファッション雑誌が廃刊になったことで、オカルト雑誌「月刊アトランティス」編集部に異動した園田雛子である。畑違いの仕事に戸惑う暇もなく、宇宙人と遭遇したという人たちの取材をすることになった雛子。しかし一人目は行方不明で、二人目は取材にならない。そして三人目に訪ねたのが、「宇宙人にさらわれた」と噂される二宮竜胆という少年だった。高校生だが特許を持ち、超高層マンションの最上階で引きこもり生活をしている竜胆。彼に振り回される雛子だが、いつの間にか、思いもかけない事件に巻き込まれていた……。

 という「竜胆くんとMIB」と、一瞬にして消えたミステリーサークルの謎を追う「竜胆くんとミステリーサークル」を経て、最終話「竜胆くんと宇宙人」に突入する。子供の頃に竜胆が交信した宇宙人の正体が暴かれるのだが、そこからストーリーは、予想外の方向に転がっていく。ネタバレになるので詳しく書けないのが残念だが、この展開にはワクワクした。少年少女時代に宇宙人の存在を信じていた人に、強くお薦めしておきたい。

 気鋭の時代小説家として知られる鳴神響一は、『脳科学捜査官 真田夏希』(角川文庫)で、現代ミステリーにチャレンジした。先に刊行された時代ミステリー『猿島六人殺し』で集まった、ミステリー・ファンの注目は、本書によってさらに深まることだろう。

 みなとみらい地区で起きた爆発事件。テロか、それとも愉快犯か。神奈川県警初の心理職特別捜査官に選ばれた真田夏希は、いきなり捜査に加わることになった。不愛想な小川祐介巡査部長と、警察犬候補のアリシアと共に、行動することになる。しかし爆発事件は続き、マシュマロボーイと名乗る犯人は、県警にメッセージを送り、警察を挑発する。そして、警察庁警備局から派遣された織田理事官の提案により、夏希はSNSを通じて、マシュマロボーイとコンタクトを取ろうとするのだった。

 優れた心理分析の能力があるとはいえ、警察官としてはヒヨッコの夏希。しかし作者は、SNSを活用することで、ヒロインを事件の中心に据えることに成功した。ネットの悪意や、犯人の匿名性など、現代日本の描き方も巧み。新たな爆発を止めようと夏希たちが奔走する、後半の展開もサスペンス抜群だ。作者は本書によって、時代小説のみならず、現代ミステリーも期待される存在になったと断言しておく。

 太田忠司の『万屋大悟のマシュマロな事件簿』(ポプラ社)は、人口三十万の市後市で警備会社を経営する、万屋大悟が主人公。娘の知織が所属する市後市のローカルアイドルグループ“marshmallow15”に脅迫状を送られたことから、警護を引き受けた大悟は、さまざまな事件に遭遇することになる。

 物語は連作のスタイルを採っている。ミステリーとしては、第二章「消えたアイドル」で使われた消失トリックが、単純だが効果的だ。ラストでは脅迫犯の意外な正体も明らかになり、サプライズを堪能できた。

 さて、そうした内容とは別に、本書にはユニークな試みがなされている。主人公の万屋大悟のキャラクターとして、俳優の遠藤憲一が起用されているのだ。表紙も当然、遠藤憲一である。おそらく小説の大悟も、ドラマや芝居でいうところの当て書きなのだろう。これにより主人公のイメージが最初から固まり、物語の世界にすんなり入っていけるのである。さらに商業的なことをいえば、遠藤憲一ファンの購入も期待できる。出版不況といわれて久しいが、出来ることは、まだまだ沢山あるようだ。

 蒼井碧の『オーパーツ 死を招く至宝』(宝島社)は、第十六回『このミステリーがすごい!』大賞受賞作。か昔の出土品だが、当時の技術や知識では制作不可能な工芸品──いわゆる“オーパーツ”の鑑定士を名乗る古城深夜と、深夜とそっくりな顔をした貧乏大学生の鳳水月がコンビを組んで、不可能犯罪を解決する連作ミステリーだ。大胆なトリックを使った話が多いが、第二章「浮遊」の、複数の人物の行動と思惑が絡まりあって構築された密室は、なかなかよく考えられていた。

 ただしだ。主人公サイドの謎を放り出したような、エピローグはいただけない。新人賞受賞作で、これはなしだろう。優れたミステリーを生み出せるだけの資質は感じられるので、次の作品を期待したい。

 友井羊の『映画化決定』(朝日新聞出版)は、さまざまな読みどころに満ちた青春小説だ。子供の頃から漫画を描き続けている、高校二年生の佐藤ナオトは、小学六年生のときに閃いてネームにした作品『春に君を想う』を超えることが出来ないでいた。そんなある日、ナオトは放課後の教室で、『春に君を想う』のネームを描いたノートを、同級生の木崎ハルに見られてしまう。一年のときに自主映画制作のコンクールでグランプリを獲得した、天才映画監督のハルは、『春に君を想う』を気に入り、これを映画化させてくれという。一度は断ったナオトだが、映画制作に自分も加わることで、これを承諾。行き詰っていた漫画創作の糧にしようという思惑があってのことだ。かくして映画制作が始まるのであった。

 ナオトの“ぼく”という一人称で進行する物語には、実に多彩なネタが盛り込まれている。ナオトとハルを通じて語られる、創作論と物語論。ふたりの間で何度も反転しながら表現される、天才と凡人の相克。ナオトの過去へのこだわりや、ハルの抱えている事情。映画にかかわった人々の想い。甘酸っぱい恋愛。さらに、作者らしいミステリーの趣向まである。これだけのネタを軽快に捌く、作者の手つきが鮮やかだ。一気読み必至の快作である。

 田中芳樹の『天涯無限アルスラーン戦記16』(光文社)は、中世ペルシャ風の異世界を舞台にした、ヒロイックファンタジーの完結篇。角川文庫から第一巻が刊行されたのが一九八六年であり、実に三十一年の歳月がかかったことになる。途中から大幅に刊行ペースがスローダウンしたこともあり、主人公の解放王アルスラーンとその仲間たちが、蛇王ザッハークと戦う第二部は、第一部ほど夢中になって読んだわけではない。それでもラストの悠久と寂寥の入り混じった情景は、万感、胸に迫るものがあった。第一巻から本書まで、リアルタイムで読むことが出来てよかった。作者に深甚なる感謝をげたい。

 平鳥コウの『JKハルは異世界でになった』(早川書房)は、小説投稿サイト「小説家になろう」グループの、女性向け官能小説サイト「ムーンライトノベルズ」で発表された作品を書籍化したものである。いわゆる“なろう小説”で人気のある異世界転生物のスタイルを踏襲しながら、かなり捻った内容となっている。なにしろ主人公の女子高生のハルは、異世界で生きるため娼婦になるのだ。転生時、神様からチート能力(ここでは労せず得た、特別な力を指す)を授けられなかった彼女には、それしか糧を得る手段がなかった。一緒に転生してチート能力を授けられた千葉や、現地の男たちに抱かれながら、ハルはしたたかに日々を過ごしていく。

 というストーリーだけで、典型的な異世界転生物に対するカウンター・パンチになっている。しかも終盤で、ハルの持つ秘密が明らかになると、それがさらに強まるのだ。このストーリー、異世界転生物を好む男性読者ならば、鼻白んでしまうだろう。でも、だからこそ面白い。ジャンルが積み重なることによって生まれる、尖った作品の魅力が、ここにあるのだ。

 最後は自著のコマーシャル。昨年の暮れ、『少女マンガ歴史・時代ロマン 決定版全100作ガイド』(河出書房新社)を刊行した。少女漫画のガイドブックは多数あるが、歴史・時代物に絞ったものは、本書が初めてだろう。しかも少女マンガと銘打ちながら、レディース・コミックから四コマ漫画まで、縦横無尽に取り上げた。面白い漫画を探すときの参考になれば、これほど嬉しいことはない。

角川春樹事務所 ランティエ
2018年3月号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

角川春樹事務所

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