• 遺訓
  • 鍬ケ崎心中
  • それまでの明日
  • 真実
  • 女は帯も謎もとく : 連作ミステリー

書籍情報:openBD

縄田一男「私が選んだベスト5」

[レビュアー] 縄田一男(文芸評論家)

『遺訓』は、西郷隆盛と庄内藩との親交に特化して書かれたはじめての力作。その庄内から西郷警護のため鹿児島へ赴くのは、元新徴組で、沖田総司の甥・芳次郎。西郷が起てば、庄内はじめかつての奥羽越の面々も起ち、大久保利通を挟み撃ちにすることができる。が、西郷は、何故、それを止め、自らの死をもって何を示そうとしたのか。感涙の一巻。

 維新百五十年記念というふれこみだが、『鍬ヶ崎心中』は、英雄たちの物語ではない。盛岡藩脱藩の七戸(しちのへ)和磨(かずま)と、彼の世話をするからといって身請けしてもらった女郎・千代菊との、愛憎を乗り越えた道行を切々と描く平谷美樹の新境地である。

『それまでの明日』は、探偵・沢崎を主人公とする十四年ぶりの長篇。従来の乾いたセンチメンタリズムに満ちた文体を楽しみつつも、ラスト二ページが、それまでの約四百ページを陵駕する重みをもって書かれていることに衝撃をおぼえた。さすがの沢崎も「地の底からの大いなる暴力」には、減らず口を封じられてしまうしかない――。

『真実』は梶芽衣子の自伝である。日活時代の〈野良猫ロック〉シリーズや東映時代の〈女囚さそり〉シリーズ、そしてTVの「鬼平犯科帳」のおまさ役、さらには梶お気に入りの「曽根崎心中」や異色作「無宿(やどなし)」まで、とにかく面白い。そして、この一巻の中で語られる「鬼龍院花子の生涯」秘話は、映画ファン必読ですぞ。

『女は帯も謎もとく』は、近年、復刊が著しい小泉喜美子の、売れっ子新橋芸者“まり勇(ゆう)”を主人公にした連作ミステリー。生前、粋でなければミステリーとはいえないとも、ミステリーは歌舞伎なのよ、ともいっていた著者の作品だけに、内容を説明すればするほど野暮になってしまうので、これくらいで――。

新潮社 週刊新潮
2018年5月3日・10日ゴールデンウィーク特大号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

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