「大きな声を出せない」と悩む編集者に向けた、「声」の専門家からのメッセージ

レビュー

  • シェア
  • ポスト
  • ブックマーク

相手に届き、自分を変える 心を動かす「声」になる

『相手に届き、自分を変える 心を動かす「声」になる』

著者
山﨑広子 [著]
出版社
大和書房
ISBN
9784479784432
発売日
2018/08/23
価格
1,540円(税込)

「大きな声を出せない」と悩む編集者に向けた、「声」の専門家からのメッセージ

[レビュアー] 印南敦史(作家、書評家)

相手に届き、自分を変える 心を動かす「声」になる』(山﨑広子著、大和書房)の著者は、学生時代に心理学と音声学を学んだのち、認知心理学をベースとして、音声が心身に与える影響を研究してきたという人物。タイトルにもあるとおり、本書においては「声」の重要性を強調しています。

日々あたりまえのように出している「声」よりも、「言葉」や「話し方」のほうが重要だと感じている人もいるかもしれないけれど、必ずしもそうとは言い切れないと主張しているのです。

もちろん言葉は大切ですが、その言葉を伝えるのは声なのです。声は他者とのコミュニケーションにおいてもっとも重要なツールなのです。(「はじめに」より)

ところで、いまでこそそのように断言している著者ですが、思春期には失語症になり、長らく声を出せなくなってしまったのだといいます。

しかし、それがきっかけで大学生時代には脳科学や知覚認知心理学、聴覚心理学といった分野を学ぶことになり、内外の論文をあたって声を分析。そんななか、脳の研究が進み、認知科学が一気に前進したこともあって、ようやく声と脳と身体の連動性の糸口をつかめるようになったのだそうです。

声を出すことは、脳と身体の非常に高度な連携活動です。そして、その際に起こるさまざまな反応が、心身に驚異的な働きかけをするのです。 簡単に言えば、それが「声の力」です。(「はじめに」より)

そのことがかわると、長い間苦しんできた失語症も治ったのだとか。つまり本書において著者は、そうしたバックグラウンドに基づいて「声の力」「自分の声の見つけ方」「声の使いこなし方」などを明かしているわけです。

きょうは、本書の担当編集者の悩みに答える形で話が進められていく「応用編 編集ワカバヤシ、声のお悩み解決法」内の「自分が声を出す場面での悩み」に焦点をあて、3つの悩みとその答えを引き出してみたいと思います。

大きな声を出せない

著者によれば、声の大きさは呼気のエネルギーが声門にかける圧の強さ、そして共鳴によって決まるもの。つまりは息の勢いが強く、ほどよく閉鎖された声門に効率よく呼気圧がかかり、大きな共鳴腔があれば声は出るということ。

とはいえ、人間の身体は、ふいごで風を送って音を出すような機械ではないのも事実です。

そもそも、話すときの普通の呼吸で吸う空気の量は500ccほどで、吐く息は400ccほど。呼吸量にしても呼気圧にしても共鳴腔にしても、人によって大きな差があるわけではありません。

400ccほどの呼気も一度に使うわけではなく、一息であれば5秒~10秒程度のフレーズを話しているというのです。

単発で大きな声を出すことは簡単。具体的には肩やアゴの力を抜き、手を肩からブラブラさせて力を抜き、重心を前に傾けながら一気に「あー!!」とか「わ!!」と口を大きく開ける発音で出してみると、よく響く声が出るといいます。

息のエネルギーを滞らせないように首をすうっと伸ばし、身体を自由にいろんなふうに動かしながら何度か試してみれば、重心をどう移動したら大きな声が出るのかの関学はつかめるそうです。

しかし単発で大きな声が出たところで、「大きな声を出せない」という悩みは解消できないはず。著者も、大切なのは大きな声を出すことではなく、「伝えたいことが伝わること」なのだと主張しています。

声の大きさはあまり関係がないので、「大きな声」を出すことよりも「伝えること」に注力すべきだという考え方。

なお、すぐ使えるワザが3つあるのだそうです。

・言葉にメリハリをつける→連続聴効果を利用する

同じ調子で「******」と話すより、「○**○○**○○○」とメリハリをつけることが大切だということ。○○は重要な単語で、つまり、どうしても伝えたいところをポンポンと勢いよく発声し、**では力を抜いておくわけです。

人間の聴覚には「マスキング」という機能があり、*のところを無音にして抜いてしまうと文脈がわからないのだそうです。でも*に雑音を入れると、聞こえなかったはずの*が聴覚によって補完され、はっきりと聞こえるというのです。

・騒がしい店内や電車の中ではいつもよりゆっくりを心がけて話す

そして低めの声がかき消されるなら、心持ち高めに(少しでいいから眉を上げる)、高めの声がかき消されるなら低めの声にするといいそうです。

・ノートやスマホなど平らなものをアゴのあたりに当て、相手のほうに向ける

これは、手持ちの道具を使った小ワザ。こうすれば声が反射するので、近くにいる相手になら驚くほどよく聞こえるのだといいます。(209ページより)

緊張するとどんどん声が小さくなってしまう

これは、おもに次の3つの要因によるのだそうです。

①緊張によって呼吸が浅くなっていること

②表情筋の動きが悪くなり、口腔内も硬くなって、声の共鳴が少なくなってしまうこと

③外に出す勢いが足りないので、声を飲み込んでしまっていること

まずは①。呼吸が浅くなっているときには横隔膜が上がり、肩に力が入っているもの。そこで自覚的に肩をだらんと下げるようにして、お腹で呼吸するイメージを持つことが大切。

息を吸ったときにお腹が膨らむように呼吸できれば、呼吸筋が安定して横隔膜が下がることに。すると、呼吸も深くなるわけです。

普段から一日に数回でいいですから、1分間に4~5回くらいの深い呼吸の練習をしておきましょう。 まず息を吐いて、次に2秒くらいですって8~10秒くらいかけて長く吐く。もちろん吸うときにお腹が膨らむように、肩が上がらないように。

これは心身を落ち着いた状態にするためにもっとも手っ取り早い方法です。長く吐くことで副交感神経が優位になり心拍数もゆっくりになり、脳の興奮も抑えられるのです。(214ページより)

②の表情筋と口腔筋は、緊張で硬くなったといってもほぐすような余裕はないはず。そういうときには視線を一点に集中させず、ゆっくり移動させてみるといいそうです。

たとえば、中心にいる人から3人くらい右へと視線を移し、今度は中心から3人左へ、というように視線を移動させるだけでもOK。そうすることによって表情筋が動き、和やかで落ち着いた印象を与えることができるといいます。

最後に③。気道を通ってきた声はすべてが外に出るわけではなく、ある程度は逆に反射して戻っているのだそう。呼吸が浅かったり、吐く息の勢いが弱かったりすると、戻っていってしまうほうが多くなってしまう場合も。

いってみれば、せっかく出した声をもう一度飲み込むような状態になってしまうということ。

そして、そうなった声を聴覚が受け取ると、「発声・共鳴に関わる神経」が働き、もっと小さい声になるとさらにフィードバックして、声はじりじりと後退していくサイクルに陥ってしまうというのです。

そんな状態を変えるためには、「声を前へ!」という意識を介入させることが重要。それは上記の方法で改善できるそうです。(214ページより)

人前で話すときに声が震える

これは、呼吸が浅く不安定になっていることが直接の原因。また、そういうときにはおそらく、まばたきも多くなっているはずだと著者は指摘しています。

まばたきは、声のピッチを下げるそうです。よって、何度もまばたきをすると、そのつどピッチが下がって不安定になるということ。

そして、呼吸が浅く震えたり不安定になっている声を自分の聴覚が受け取ると、深部脳は「これはまずい」とストレスホルモンを生成することに。

すると動機はさらに激しくなり、筋肉は萎縮し、胃が痛くなったりお腹がゴロゴロしたりすることに。脳が危険信号を出しているわけです。

著者いわく、そんなときはいったんリセットすることが大切。ちなみに、ガチガチになった身体や動機を一瞬でリセットする方法は「咳払い」なのだそうです。

口を開けずに喉だけで軽く咳払いをするだけで、効果が望めるというのです。

そしてリセットしたら、顎を少しだけ引いて目をはっきりと開け、お腹から勢いよく息を出すつもりで話し始めると、震えがなくなって、しっかりした声になっているはずだといいます。

最初は長続きしないかもしれませんが、重要なのは、その感触をつかむことができるまで何度でもやってみること。

そのしっかりした声がフィードバックされると、脳がそれを覚えるため、最初からしっかりした声が出るようになっていくそうです。(216ページより)

声を使いこなすことは、実際のところそれほど簡単なことではありません。「声を使いこなすことができれば、伝え上手になれる」とわかってはいても、なかなかそこまでたどり着けないわけです。

だからこそ、なんとかしたいという思いを抱いている方は本書を参考にしてみるといいかもしれません。

Photo: 印南敦史

メディアジーン lifehacker
2018年9月25日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

メディアジーン

  • シェア
  • ポスト
  • ブックマーク