『不安を自信に変える授業』
- 著者
- クリステン・ウルマー [著]
- 出版社
- ディスカヴァー・トゥエンティワン
- ISBN
- 9784799323472
- 発売日
- 2018/08/26
- 価格
- 1,760円(税込)
「不安」と向き合うときに大切なこと、やってはいけないこと
[レビュアー] 印南敦史(作家、書評家)
『不安を自信に変える授業』(クリステン・ウルマー著、高崎拓哉訳、ディスカヴァー・トゥエンティワン)の著者は、ユニークな経歴の持ち主です。
アウトドア業界に身を置いていた15年の間に、「恐れ知らずの女性」との評判を確立。そのうち12年では世界最高の女性エクストリームスキーヤーに選ばれ、北米屈指の女性アスリートにも選出されたというのです。
しかし現在は世界的ファシリテーターとして活躍し、本書のテーマとして「不安」を掲げています。
一見、そのキャリアに一貫性はないようにも思えます。が、そんな著者の人生は「不安」そのもの。つまり上記のような経験をしてきた結果、「不安」の生き証人になったと自負しているのです。
つまり本書は著者の個人的な哲学ではなく、「不安」そのものから生まれたものだということ。
誰もが共感や愛、世界平和を切望し、それらに手が届かずにいるいま、私たち人類は変化を受け入れ、個人や集団が進化の次の段階に進むことが必要です。
そのためにこそ、私たちを不自由にする「不安から目をそらす習慣」から脱却することが求められています。 この習慣から抜け出さない限り、私たちはなすすべもなく「不安」に押しつぶされ、苦しみ続けるだけです。
(中略)不安との関係は、つまるところ自分自身との関係であり、人生で最も重要なものです。(「はじめに ー なぜ不安を乗り越えてはいけないのか」より)
「不安」とのいつわりない関係を築けて初めて、自分自身といつわりない関係を築くことが可能になり、他者や世の中ともいい関係を築けるということ。だからこそ我々は、「不安」との関係の改善にいますぐ取りかかるべきだというのです。
では、そのためにはどうすればいいのでしょうか?
Part.3「シフトーー不安を自信に変える技術」内の第6章「新しい考え方を手に入れるには」のなかから、答えを探してみることにしましょう。
不安を感じる勇気
この恐ろしい世界で生き残るためには勇気が必要。著者によればそれは、「不安を感じる意思」という勇気なのだそうです。「自分が何者か」を考えずにいたり、忘れたりするのは簡単。しかし、それは勇気ではないということ。
ただ働き、食べ、家を改築し、貯金し、「もしああだったら、もしこうだったら」と繰り返すだけの人生を送っていたら、大きな転換を行うチャンスを逃してしまうというのです。
すばらしい何かを手に入れるには、もっとつらく困難な道を行かなくてはなりません。内なる自分を見つめて100パーセント自分になり、時機を見はからって自分が何者かを探り、暗闇の中へ跳び込む意思を持つ。
それができる人は、絶対に弱虫などではありません。不安感情を引き受けるのは、勇敢な人にしかできません。(198ページより)
不安に向き合おうとする新しいエネルギーのほとばしりは、自分の人生だけではなく、周囲の人にもいい影響を及ぼすもの。自分の存在に責任を持つと決めた瞬間、エネルギーが周囲へ力強く波及していくということです。(197ページより)
不安と向き合うときに大切なこと
著者によれば、本書の最大のテーマは好奇心に火をつけること。セラピストがよくやるような、感情について考え、話そうとするのをやめることだそうです。
そこで、これからは感情をコントロールせず、ただ注目し、自分の身体がなにを感じているかに興味を抱き、感じることを身体に許してやるべきだと著者。まずは「興味を持つ」ことが大切だそうです。
そしてもうひとつ、「しがみつくほど大切なものなんてひとつもない」という考え方も重要。そのため、いちばんいいのは、目標を定めないこと。しかし、目標がないと落ち着かないという人は、「自分はもう、不安や怒り、苦しみを克服する道を歩まない。その状態をただ受け入れ、満足し、人生のすべてを愛す。悲惨な自分にも満足できる人間になる」と考えるべき。
やってみると、「人は100パーセント不完全で、そのままで最高な存在」だということに気づくことができるといいます。逆にいえば、いままではそれが見えていなかっただけの話。
誰かとのこじれた関係を終わらせたいなら、まずは一緒の席に就こうとすることが大切です。恋人でも、両親でも、子どもでも、友人でも、感情でも、1万人の社員でも。
そして、自分がひどい奴だったと認めること。たくさん話し、自分の意見を脇にどけ、相手を尊重して謝ること。すると、すべてが変わります。あっという間に変わっていきます。
「己の欲するところを人に施せ」。これは人生の黄金律です。誰だって、欲するものは同じです。敬意に信頼、愛情、そして意見を聞いてもらえる機会。あなたの会社の社員も同じです。それが彼らの要望です。(200ページより)
彼らに興味を持ち、権限を与え、敬意を示す。そうすれば向こうもひねくれた働き方をしなくなり、まったくの別人に変わって正反対の動きをしてくれるということ。
著者は新しい相談者に対しては、必ず不安から始めるように言うのだそうです。なぜなら、不安との関係で息詰まる人が多いから。不安との関係がなおらない限り、次のステップに進むことは不可能。
暗い“声”の最大のエネルギー源は不安であり、不安に対処できれば、ほかのこともうまくいくというのです。
自由を得るために大事なのは不安を感じる練習。不安を引き受け、不安からの解放を感じることができれば、身体が楽になるわけです。
よって、本当の自分になるためには、まず不安といい関係を結ばなくてはならないと著者は強調しています。不安とのいい関係は、自分の核になるとも。核がなければ道を最後まで行くことはできず、本当の自分にも届かないまま。
段階的に進める姿勢こそが大切なので、まずは自分自身との良好な関係を築くことから始めなければならないということです。そして、いちばんにやらなくてはならないのが、自分の感情と向き合うこと。(198ページより)
やってはいけないこと
理性と知性を育み、それを最優先することは大切。ところが、思考を使えば心理、精神、身体、感情のどんな問題も解決できるという考え方は間違い。著者はそう断言しています。
知性は美しいツールだけれども、愛や感情、あるいはエゴを上回る大きな体験をしたいときには邪魔になるものだから。
というよりも、「考えてばかりだから感じられない」と言ってもいいそうです。その状態でいると、「自然な本当の存在」からどんどん遠ざかり、解決策からも離れていってしまうわけです。
不安にまつわる問題を解決したいのなら、自分のなかにある未知の知性にアクセスする必要があるということ。それは、自分自身がこれまでないがしろにしてきた悲運の知性、しかしずっと息づいていて、注目されることを待っている優れた知性。
そして、それを手に入れるためには、下記の「賢い」人間の行動をとってはいけないのだそうです。
セラピー
著者いわく、知性を使って感情の問題を解決しようとするのは時間の無駄。「不安との関係を改善する必要がある」と考えた瞬間、思考に支配され、完全に迷子になってしまうから。
いろいろと振り返る
昔の知り合いに連絡をとり、なにが起こったかを話し、謝ってもらう必要もなし。それではカゴを抜け出すどころか、柵が強固になってしまうだけだから。
大切なのは不安と自分との関係であり、それは過去ではなく「いまこの瞬間」にしか存在しないということ。
過去に意味を求める
過去へ立ち戻り、自分が不安を抑え込むようになった原因を、両親や教師、社会といった人やものに求める必要もなし。
全力でがんばる
不安と新しい関係を築くのは、川になれという命題と同じくらいシンプルで、同じくらい難しいもの。
予定を立てる
計画を立てると必ず失敗するもの。「取り除くために不安を受け入れる」と予定を立てれば、それは形を変えた不安の克服になってしまうということ。
目標を立てる
目標は緊張を生むので捨てるべき。
よくなった自分を想像する
いま目指しているのは改善ではなく、ただ、そこにいること。もともとの状態を離れるべからず。
希望を抱く
希望にしがみつくのも、やはり緊張を生むだけ。希望を抱くと、いまよりもいい未来にばかり目がいくものだけれども、人はいまの自分を失ってはいけないということ。
答えを出す
人生には答えのないことがあるもの。答えを探すほど、「どうやれば乗り越えられるか」ということばかりが気になり、感じるのではなく「考える」やり方に戻ってしまうわけです。
答えを探すのではなく、ただ疑問を持つようにするべき。
確かさを求める
ずっと変わらないものなどはなく、どんなものでも6秒後には変わっていくもの。ただ、不安との新しい関係性に身を置けばよいということ。
自分を手放す
過剰なストレス、不安、怒りの“声”を排除しないようにするべき。それらに気づき、認識し、興味を持つことこそが練習だということ。
やり方を尋ねる
ブッダは、たったひとつの発想の転換で悟りに至ったのだそう。それは、自らに「方法」を問うのをやめること。そうすれば、答えは自然と訪れるということ。
すべてを完璧に知ろうとする
不安をはじめとするいろいろなものを、理屈で理解しようとするのはやめること。世の中には、説明のつかないことがたくさんあるのだから。しかし感じ、認識し、場合によっては「そのもの」になることは可能。
(202ページより)
「不安」は誰にでもあり、なかなか乗り越えられないもの。だからこそ発想の転換が求められるわけですが、そうしようという過程において、本書はなんらかのヒントを与えてくれるかもしれません。