民主主義の死に方 スティーブン・レビツキー&ダニエル・ジブラット著

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民主主義の死に方

『民主主義の死に方』

著者
スティーブン・レビツキー [著]/ダニエル・ジブラット [著]/濱野 大道 [訳]
出版社
新潮社
ジャンル
社会科学/政治-含む国防軍事
ISBN
9784105070618
発売日
2018/09/27
価格
2,700円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

民主主義の死に方 スティーブン・レビツキー&ダニエル・ジブラット著

[レビュアー] 菅原琢(政治学者)

◆米大統領が先導する自壊

 ドナルド・トランプは、歴代の米国大統領の中でも日本での報道が際立って多いのではと感じる。だが、本書が主張するような大統領・トランプの真の危険性を伝えるメディアは少ない。

 本書は、米国が独裁体制に向かいつつあると警告し、その背景を解説したものである。特徴的なのは、民主主義国家の成立や崩壊の過程を分析してきた二人の研究者が執筆した点である。二人が研究対象としてきた南米や東欧のような民主主義発展途上の国々の経験が、民主主義の守護者を自認する米国の現在を考察する際に有効というのは皮肉である。

 民主的体制の崩壊は、革命やクーデターのような暴力により訪れる印象がある。だが実は多くの体制が民主的な手続きにより自壊している。民主的に選ばれた大統領が、最高裁判事を代え、訴訟などにより対立する政治家、資金提供者、報道機関を排除し、選挙制度を弄(いじ)くり、憲法を変え、合法的に独裁体制を築くのである。

 本書によれば独裁への道を歩む政治家の行動には共通の兆候が見られる。選挙中からトランプは、民主的ルールを拒否する等の四つの基準全てで「陽性反応」を示していた。そして現在、典型的な独裁者と同様の戦略に打って出ており、米国の民主主義はかつてない危険に曝(さら)されている。

 もっとも、この危機は今に始まったわけではない。相互的寛容や自制心といった規範、不文律がここ数十年で失われ、二極対立を煽(あお)る激しい闘争が米国の政治と選挙を支配するようになった先に、たまたまトランプがいたにすぎない。より有能で狡猾(こうかつ)な人物が米国大統領となり独裁への道を歩んだときに世界はどうなるか-そうした恐怖の未来を現実のものとして想像させる説得力が本書にはある。

 多様な国々の観察から得られた知見は、時代や地域を超えて通用する。国会議員が過激な発言を繰り返し、マス・メディアがこれを好んで取り上げる現在の日本政治を考える際にも、本書は参考となるはずである。

(濱野大道(はまのひろみち) 訳、池上彰 解説、新潮社・2700円)

ともに米ハーバード大教授で、ニューヨーク・タイムズなどに寄稿多数。

◆もう1冊

中林美恵子著『トランプ大統領とアメリカ議会』(日本評論社)

中日新聞 東京新聞
2018年11月18日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

中日新聞 東京新聞

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