学びの友となる教科書を目指して――『社会保障法』刊行によせて
――2008年に出版のための第1回会合をさせていただいてからかれこれ10年が経ちました。
笠木 10周年に出版になりますね。
――執筆分担は最初の会合の時に各先生方のご専門分野でということで決まったんですよね。
中野 そのときに決めましたよね。
渡邊 それぞれの専門分野などを考慮しながら、すんなりと決まりました。
笠木 とりあえず目次立てみたいなものはわりと早く出しましたよね。目次を決めるあたりまでは、とんとん拍子で進んだような印象です。
嵩 でも、執筆は遅かった(笑)。
――総論のご執筆は笠木先生と中野先生がご担当でしたが、特にご苦労されたんじゃないかと思います。なかなか類書がありませんでした。
笠木 大変でした。
中野 でも、私が担当した部分は、西村健一郎先生や菊池馨実先生の教科書(書名はそれぞれ『社会保障法』)でもしっかり書かれている憲法などの話なので。
笠木 第1章はあまり依拠するものがなかったので、校正していても、そもそも何を書くかという基本的なところに、どんどん疑問が出てきてしまう。これをそんなに書く必要があったのか、本当はこれをもっと書くべきではないか、と悩み始めるときりがないです。
――会合が始まった当初は体系的な社会保障法の本があまりなかったと思います。
嵩 年金については堀勝洋先生の詳しい御著書があるので(『年金保険法』)。でも、大変でした。各論の中で総論についてふれるために、自分たちの今まで研究してきたこともまとめたりして。それは確かに大変でした。
――各制度ごとに総論を書くというのは今までにないコンセプトでしたしね。
嵩 それがけっこう難しかったですかね。
笠木 生活保護はたくさん判例が出たり、学説も議論が10年前よりも多くなりましたね。
中野 2013年に大改正もありましたしね。
――どうしても改正が多い分野ですので、それを追いかけるのも大変でしたね。
笠木 特に苦労されたのは、福祉の章を担当された中野さんだったでしょう。
嵩 福祉は、めまぐるしいですよね。
中野 法律も多いし、改正も多いから、それを追ってどんどん継ぎ足していくうちに分量が多くなってしまって。福祉の場合は倉田聡先生の『これからの社会福祉と法』や、『よくわかる社会福祉と法』(西村健一郎・品田充儀編著)など、社会福祉学の人が法律を学ぶためのテキストというのはけっこうあって、そういうものを参考にさせていただきました。
――そうですね。笠木先生担当の医療のところもいろいろな特別法が出てきました。
笠木 このような改正や、改正に向けた議論があるよという情報を岩村正彦先生や共著者の皆さんから頂戴して、まめにチェックするようにしていました。ただ、特に改正に向けた議論の部分は、原稿からは省いたこともけっこうありますね。編集会議の場では盛り上がったけど、ちょっと教科書では書きにくいとか。原稿のコメント欄にはいっぱい書いてあるけど、結局、本には反映しないままということもありました。
――そういう惜しい情報もたくさんありながらできた本ですよね。
嵩 ここはもう少し書かないと不十分になるかな、というようなものを書き込んでいっちゃうと、学生にとっては重過ぎたり、他方で、すかすかのところもあったりと、バランスをとるのが難しかったですね。
中野 岩村先生に、発展項目に記載した文章が長過ぎると言われたり。
笠木 「発展」の内容ですごく盛り上がってしまって。
渡邊 そうそう。教科書としてのバランスをとるのが難しかった。読みやすさのために、見出しタイトルを見開き1頁の中に最低1つは入れるといったこともありましたね。
中野 見た目のルールとかね。
嵩 ずらずらと字が続かないようにね。
笠木 私は、他の教科書に共通して書いてあることは、もうさらっとでいいかという傾向があって。本文はわりと薄い記述しかない項目なのに「発展」が多い、というような状況になることもあって、そのバランスが難しかったです。
中野 私は逆で、他の教科書に書かれていることはちゃんと自分も拾わなきゃみたいな感じでした。