心優しきクズの、かくも美しき人生『哲司、あんたのような人間を世の中ではクズと呼ぶんやで』石田香織

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哲司、あんたのような人間を世の中ではクズと呼ぶんやで

『哲司、あんたのような人間を世の中ではクズと呼ぶんやで』

著者
石田 香織 [著]
出版社
河出書房新社
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784309027333
発売日
2018/10/24
価格
1,674円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

心優しきクズの、かくも美しき人生

[レビュアー] 三浦天紗子(ライター、ブックカウンセラー)

 どことは知れない山の中の、街道沿い。街から逃げ出して、いまは廃墟となったラブホテル〈ふたりのすばこ〉で雨風をしのぐ〈私〉こと渋谷哲司。事務所だった部屋からペンと便箋の束を見つけ、豊田さんに宛てて手紙を書くことにした。豊田さんは、パチンコ屋で隣り合わせになり、ゴマ油と塩を混ぜたおにぎりをくれた女性だ。深い縁があるわけではないが、そんなささやかな縁さえ、心安らかな思い出になってしまう幸薄そうな男なのだろうと、冒頭から予感がある。

〈私〉は手紙の中で、五十数年の人生を幼少期から思い出していく。たとえば、つりが好きで自分と兄に肩車をしてくれた優しい〈たかし兄ちゃん〉は、母と再婚してから暴力を振るう父となったことなど。禍福はあざなえる縄のごとしの人生だ。〈哲司くん〉〈渋ちん〉〈てっちゃん〉など、身を置く場所が変わるたびに呼び名が変わり、暮らしや仕事も変わる彼の人生の収支は、ひいき目に見ても2分8分でマイナス。降りかかる厄災をニヤニヤと、ごまかし笑いでやり過ごすしか心を守ることができなかった〈私〉の回想の断片からは、小銭泥棒、DV、借金……と、タイトル通り、世の中ではクズと呼ばれてもしかたない行状も見えてくる。

 それでも流れついた先で優しさの板きれにつかまり、今度こそ岸にたどり着けるのかと思った矢先に、〈いつだって壊れてしまう。壊れたのか、壊したのかは私には分かりません〉と綴る男の寄る辺のなさは、境遇こそ違えば、生まれなかった思いだろう。ゆえに重い。壮絶な体験を経ても性根はいいままで、世間の辺境にいる弱い者たちに優しい哲司。胸を張れることが何もないように思う生き方の中にも、人に優しくしたりされたり、決して耀(かがや)きを失わない瞬間があることを、読者に思い出させてくれる。

光文社 小説宝石
2019年2月号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

光文社

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