<東北の本棚>新たな心の支え大切に
[レビュアー] 河北新報
東日本大震災では今なお2533人の行方が分かっていない。そこにいるはずの家族が突然いなくなり、生死も分からないままの「曖昧な喪失」に苦悩する人々を、どう支えていくべきか。震災8年となる今年3月11日に出版された本書で、メンタルヘルス専門家がその理論と方法を紹介する。
曖昧な喪失とは、米中枢同時テロで行方不明者家族のケアを担った米ミネソタ大のポーリン・ボス名誉教授(家族社会心理学)が提唱した。行方不明など「さよならのない別れ」と、認知症や精神障害による「別れのないさよなら」の二通りがある。前者の例では、行方不明者の役割を引き継ぐことへのためらいから、家族間の葛藤や心理的苦痛、地域の深刻な機能不全が起こるとされる。
そうした人々を支える時、曖昧さをなくしたり、悲しみを引き起こしている問題に黒白をつけたりする態度は求められない。本人はもとより家族や地域社会のレジリエンス(回復力)を活性化させ、「AでもありBでもある」という二者択一を避ける考え方や、新たな精神的よりどころとなる「心の家族」の存在を重視すべきだと、本書は強調する。
子どもの心のケアは主題の一つ。第2、3章では架空の事例を使い、災害前後のジェノグラム(多世代家族構成図)を用いて、葛藤を生きる子どもの心理をどう解き明かすかを示した。第4章では、被災や認知症に直面しながらも柔軟にレジリエンスを高めていく家族の物語に胸を打たれる。
多発する災害と急速に進む高齢化。誰しもが不安を抱く時代をどうすればよりよく生きられるか。ボス氏の薫陶を受けた専門家チームによる貴重な啓発の書とも言える。
誠信書房03(3946)5666=2700円。