「売れたやつは一人一人潰さないとね」(笑) 警察小説の重鎮が新人を困らせた!? 褒め殺し対談
対談・鼎談
今野敏×今村翔吾・特別対談 “怖さ”と“不安”は作家の宿命 選考委員VS受賞者
[文] 角川春樹事務所
作家であり続けるための原動力
――さらにお二人に共通するのはシリーズものを執筆されているという点です。
今村 この「安積班シリーズ」は自分が警察署の中にいるような感覚になります。乾いた空気感とか人間関係とか、とてもリアルですよね。それにしても三十年ですか。これほど長期にわたって一つのシリーズを書き続けるなんて僕は想像できません。最初からその構想を持たれているんですか?
今野 というのもあるけど、そうじゃないのもある。『隠蔽捜査』は一回こっきりのつもりでした。その前に書いた『ビート』はすごく力を入れて書いたのにぜんぜん売れなくて、これがだめなら何やったって同じだと肩の力を抜いたの。
今村 えっ、それがあんなに続くんですか。ますます想像できない。僕は結末を決めてシリーズを書き始めるんです。ぼんやりですが、こんな終わり方にしたいというのがあって。
今野 俺は決めてないよ、結末。
今村 犯人も決めてないんですか?
今野 決めてない。いや、大まかにこいつにしようかなというのはあるけれど、布石を打っているうちに、どう考えてもこっちを犯人にしたほうが面白いってなると、振り返って齟齬がないか調べて、拾える布石があれば拾って。そうすると、あたかも最初から考えていたかのように、物語ができる。すごいどんでん返しですねなんて言われるけど、当たり前だ、俺だって知らなかったんだから(笑)。
今村 道理で面白いわけだ(笑)。今、二十シリーズくらい持たれているそうですが、中にはしばらく書いてないというのもあると思います。書かなあかんなと思うことはないですか?
今野 あんまりないかな。いつか書きたいとは思うけどね。
今村 その余裕が僕にもほしい!
今野 それはさ、四十年も続けてれば……。
今村 怖いんですよ。作品を出し続けないと忘れられてしまうのではないかと。風邪をひいて数日執筆を休んだだけで不安になってしまうんです。
今野 怖いのは当然。俺だって連載を始めるときは怖い。ちゃんと終えられるのかと思うから。
今村 今野先生でもいまだに怖さがあるというなら、それはきっと消えへんのやな。
今野 うん、消えない。作家の宿命だからしょうがない。
今村 その怖さと戦っていかないといけないんでしょうね。
今野 そう、その連続だよ。だから、辞めるなら今だよ?
今村 うわ、出た!(笑)。
――それでも書き続ける。これもまた、作家の宿命でしょうか。
今野 逆に言えば、怖かろうが、四十年ぐらいやれるってこと。好きならね。
今村 その思いは、一冊出すごとに蓄積されていく感じがします。あー、なんとしても生き残って、僕もいつか若い作家に言いたい、潰すぞって(笑)。
今野 本気だよ! 冗談だと思ってるかもしれないけどさ。そういう気持ちなのよ、プロは。だってライバルだもん。手塚治虫さんは亡くなる直前まで若手のことをコテンパンに言ってたんだけど、悔しいんだよ、やっぱり。その気持ちはものすごくよくわかる。
今村 僕にもありますよ。書店で平積みになっているのは誰の本なのか、売上ランキングはどうかと気になるし。同年代だと特に気になります。
今野 大沢在昌ってのはデビューが同時期で年齢もほぼ一緒なんだけど、あいつは『新宿鮫』でどーんと売れて直木賞も取って。でもあいつがいたんで、悔しくってここまで来たというのもあるよね。へこんだときになにくそと思える存在がいるのは大きいよ。
今村 そうですね。でも今は、ライバルうんぬんの前にとにかく書くこと。二つのシリーズに一生懸命取り組まなくてはと改めて思いました。
今野 たまたまだけど、春樹賞の選考委員はめちゃくちゃ書く二人だしね。量って大事だと思います。三十代の頃、石ノ森章太郎さんに言われたんだけど、質なんて量を書かないと上がらないよと。以来、座右の銘にしています。
今村 はい、頑張ります。今日は勉強になりました。ありがとうございました。