社会学、あなたはどこから?――『社会学はどこから来てどこへ行くのか』スピンオフ

対談・鼎談

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社会学はどこから来てどこへ行くのか

『社会学はどこから来てどこへ行くのか』

著者
岸 政彦 [著]/北田 暁大 [著]/筒井 淳也 [著]/稲葉 振一郎 [著]
出版社
有斐閣
ジャンル
社会科学/社会
ISBN
9784641174412
発売日
2018/11/14
価格
2,420円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

社会学、あなたはどこから?――『社会学はどこから来てどこへ行くのか』スピンオフ

[文] 有斐閣

社会学を続けること

永田 おさいさんは、社会学やめようと思ったことはないの?

齋藤 わたし、不妊治療をやっていたんです。2007年に博士号をとったころには32歳になっていたんで、不妊治療をそろそろというか。25歳で結婚していたから、自然妊娠すると思っていたんだけど、全然せえへんくて。それから不妊治療を40手前までしてて。

永田 長いね。大変やったね。

齋藤 大変でした。

永田 お金もかかるしな。

齋藤 そう。教員としては非常勤で、研究の方も人の研究協力者みたいなので、絶対に細い糸は切らんとこうと思いながらも、半分諦めかけているところはありながら。そのなかで非常勤でやっていた科目が「子育てとコミュニティ」とかで、すごいつらくて。

永田 それはつらいわ。

齋藤 すごいつらくて。卵が採れたかどうかの結果とか、培養の結果とかを午後1時に電話で問い合わせるっていうシステムやってんけど、その授業が一時からやって、12時55分ごろにフライングして電話して、今日もダメでしたって言われたら、よし今からトイレで1分泣こうっていって、1分泣いてから涙をぬぐって授業に行く、みたいなことをしていて。
 「家族関係論」「女性論」「子育てとコミュニティ」「高齢者とコミュニティ」という講義の非常勤していたんだけど、授業中にギャルっぽい学生たちが、「先生子どもおんの?」とか言うから、「いま治療してんねん」って言ったら、授業終わってから、ギャルがそこらにあったお菓子の包み紙とか、ノートちぎったのでいっぱい鶴折って、「先生これあげる」って千羽鶴みたいなのくれたりして。そんなんで「ありがとう」とか言いながらやっていたんだけど。
 やっぱり、なかなか治療と研究の両立が難しかったです。細い糸で生きてきたんやけど、40歳になったときに、毎月毎月病院に行かなっていうのがしんどくなってきて、メキシコに1カ月留学したときに、病院に行けなくなるから、そこでスパッと切ったら、バーッと仕事が回ってくるようになって。特任の話が来て、「シノドス」の話が来て。そこからもう1回軌道に乗り始めて、博論を単行本化しようという話になってきて。その不妊治療の間に勉強を始めたスペイン語で、英語できひんからスペイン語でなんとかグローバル人材になってみようとかしているうちに、少しアクセルがかかってきたなみたいな感じだったんです。それで、現在に至る。

永田 なんでそんな早く結婚したん?

齋藤 学費の免除と新婚家庭家賃補助めあて。

永田 免除か。なるほどな。わたしも27歳で結婚したんだよね。そのあと離婚したけど。そのときに結婚したのも、だいたい似たような理由で。相手がサラリーマンやってん。
 わたしは博士そろそろとりましょか、みたいなタイミングで、そのあと留学するつもりやったんな。それで、そのときに配偶者ビザがあったら一緒に行けるからっていうので、結婚の手続きして。そしたら、そのあと9・11のニューヨークのテロ事件があって。
 それで、しゃあないからこの国内でやろかって言ってやっていたんだけど。やっぱり妊娠と出産は絶対絡むよね。わたしも30代の半ばくらいまではキャリア優先で積極的に子どもはつくっていなかったんだけど、30代の半ばくらいになって、当時の夫とそろそろ頑張ろうかって言って頑張り始めて、そしたら全然結果出なくて。それで病院行こうかってなったときに、元からギクシャクしてたけど、そこを無視できなくなったんよね。やっぱり不妊治療って一人だけではなんともならんから。それで、「もう無理」って離婚した途端に仕事が回り始めて、就職が決まって、現在にいたるっていう。何かあるんやんな。

齋藤 人生の転機みたいな。

永田 ターニングポイントですね。ライフコース論でいうところのね(笑)。そのあと再婚してからも不妊治療ずっとやっていて、わたしまだ一応継続中ですよ、この年で。でも、1年で200万くらいかかるんだよね。

齋藤 そうなんですよね。だから、確定申告やらんと。

永田 ほんまにそう。めっちゃお金かかるのよ。ただ、それをやっていると、やっぱり研究と両立は難しいと思う。だって、毎月やれ注射打ちに来いだの、やれ何だのかんだの。

齋藤 予定が入れられない。

永田 調査だとか、研究グループで合宿だとか予定があっても、1週間前にドタキャンせなあかんねん。

齋藤 そうなんですよね。

永田 調査や合宿にむけて準備してきたのに、出張キャンセルとか「それどうなるの?」って話やけど、しゃあないから。だから、それでだんだん研究から離れざるをえなくなっていくっていうことが、実際あるわけよね。

齋藤 今回の卵が当たりかもしれんって、思ったらやめられないですよね。

永田 そう。やめられない。今までダメでも、何回「ガチャ」回すかはお金と時間によるわけだから。ガチャ回さないと当たりは引けないわけだしっていうので、難しいんだよね。

齋藤 でも、社会学者の性というか、研究しなあかんのかなっていう気になってきて(笑)。

永田 不妊治療の実態について?

齋藤 そうそう。

永田 それ、たぶん隠れ当事者はいっぱいいると思う。

齋藤 そうそう。いると思うんですよ。『どこどこ』でも出てくるけど、前に柘植あづみさんの講演会を聞きに行ったとき「社会学者なんですよ」って言ったら「研究頑張ってください」みたいな。「やらへん、この研究はやらへんで」っていう。社会学者らしいエピソードです(笑)。

永田 あるわ。だから今でもそうやん。自分は、妊娠先行型結婚の研究をしていて、別に子どものことなんて考えていなかった人たちが「できちゃった」ってところから話がはじまるやん。生活のこととか夫のこととかぶーぶー文句も言いながら、それでも子どもはかわいくてっていう話をこちらは聞いて歩くんですよ。それに、妊娠先行型の人ってわりと子どもが多くなりがちなんですよ。若くて子どもを持つからね。だから、2人とか3人とか、フィールドに行ったら赤ん坊連れて「永田さ~ん」とかって来るわけよ。

齋藤 切ない。

永田 今でもそうだよね。

齋藤 つらいね。

永田 自分が不妊治療始めて、ままならんなって思っていたときに、「結婚することになりました」って連絡来て、よかったねって思って、全然自分よりもあとから妊活始めているのに、すぐ「2番目も生まれます」って連絡きて。「やっぱりそうなりますよね……」みたいな。こっちは何年も何年間も空振り続けているのに、君ら運がええな、と思って。

齋藤 思いますよね。私もめっちゃ思う。

永田 めっちゃ思うよね。それつらいよね。

有斐閣 書斎の窓
2019年9月号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

有斐閣

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