現代中国の高校が舞台「遅れてきた新本格ミステリ作家」の第2長編

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雪が白いとき、かつそのときに限り

『雪が白いとき、かつそのときに限り』

著者
陸 秋槎 [著]/稲村 文吾 [訳]
出版社
早川書房
ジャンル
文学/外国文学小説
ISBN
9784150019488
発売日
2019/10/03
価格
1,650円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

少女の心理に分け入る繊細なタッチと後に残る思春期特有のほろ苦さ

[レビュアー] 大森望(翻訳家・評論家)

 昨年邦訳され高い評価を得た第一長編『元年春之祭』に続き、中国出身の“遅れてきた新本格ミステリ作家”陸秋槎の第二長編が出た。奇怪な題名は、巻頭に引かれた論理学者タルスキの文章が出典。論理と抒情が同居する本書によく似合う。

 同じ百合ミステリでも、紀元前の話だった前作に対し、本書の舞台は携帯もコンビニもある現代中国の高校(共学だが、主要登場人物は全員女性)。寮委員の顧千千は生徒会長の馮露葵と、5年前に同じ寮で起きた事件を調べはじめる。冬の朝、寮の女生徒の遺体が白い雪の上で見つかり、足跡がなかったため自殺として処理されたが、凶器のナイフに指紋がないなど、疑問点も多く残る。

 顧千千はスポーツ特待生として入学したが、陸上部のコーチと対立し退部。やる気を失い成績が急落したとき、先代生徒会長の指示で彼女の教育係を務めた同学年の恩人が馮露葵。毒舌ながら頭脳明晰、なんでもこなす優等生だが、自分は普通すぎるとコンプレックスを抱いている。

 このコンビに協力するのが、大学卒業後、図書室司書として母校に赴任したばかりの姚漱寒。中学生と間違われるほど小柄な幼児体型の持ち主で、重度のミステリマニア。本物の名探偵の助手になるのが夢だったと、馮露葵のワトソン役を買って出る。「私たち、仲良しになれるかもしれないわね」「そうは思いません」みたいな掛け合いが楽しい。

 もっとも、全体としてはシリアスで、前作が麻耶雄嵩風なら、今回は法月綸太郎風だが、少女たちの心理に分け入り“意外な動機”を焙り出す繊細なタッチは著者ならでは。キーワードはepiphany。もともとは神の顕現を意味し、転じて、突然訪れる“悟り”の瞬間を指すが、作中ではそれが“自分の人生は終わりを迎えたと気づいてしまうこと”と説明される。彼らはなぜそんな瞬間に直面しなければならなかったのか。思春期特有のほろ苦さがあとに残る。

新潮社 週刊新潮
2019年10月31日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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