北斎 十八世紀の日本美術 エドモン・ド・ゴンクール著

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北斎

『北斎』

著者
エドモン・ド・ゴンクール [著]/隠岐 由紀子 [訳]
出版社
平凡社
ジャンル
芸術・生活/絵画・彫刻
ISBN
9784582808971
発売日
2019/11/20
価格
3,520円(税込)

書籍情報:openBD

北斎 十八世紀の日本美術 エドモン・ド・ゴンクール著

[レビュアー] 日野原健司(太田記念美術館主席学芸員)

◆幅広く緻密な先進的研究書

 江戸時代に活躍した浮世絵師・葛飾(かつしか)北斎。大胆な構図で富士山を描いた代表作「富嶽(ふがく)三十六景」が日本のパスポートや紙幣のデザインに決まるなど、現在でも高い人気を誇るが、海を越えたフランスでも北斎への関心は強く、しかもその歴史は長い。今から百二十年以上前の一八九六年、北斎の画業の全貌を紹介した西欧初の書籍が、早くも刊行されているのである。

 著者はエドモン・ド・ゴンクール。文豪として著名だが、浮世絵への造詣も深く、フランスにおけるジャポニスムの興隆に大きな役割を果たした。本書の五年前には『青楼の画家、歌麿(うたまろ)』という美人画の名手・喜多川(きたがわ)歌麿について初の研究書も刊行している。

 百二十年以上も昔に刊行された北斎の研究書について、歴史的な意義はともかく、情報の乏しい時代遅れの内容ではなかろうかと心配する方もいることだろう。確かに、作品の制作年について、最新の研究成果によって修正すべき点はいくつか見受けられる。

 だが、本書の大きな特色として、北斎の作品に何が描かれているのか、文章だけでも想像ができるほど、懇切丁寧に説明している点に注目したい。それは、一つ一つの作品を細かく記録し、正確な時代順に並べようとした、ゴンクールの研究者としての情熱的な態度が反映されたものである。そして同時に、江戸時代から遠く離れた現在の私たちにとっては、北斎の作品のどこを眺めるべきか、分かりやすい手引きにもなっている。

 特に、黄表紙(きびょうし)や読本(よみほん)といった、北斎が挿絵を描いた小説については、北斎の絵だけではなく、物語の世界まで詳細に語られている。現代の研究書では掘り下げられることが少ないジャンルであり、本書は現役の研究書としても十分に活用に値する。

 作品の図版が掲載されていないことが難点だが、近年は北斎の画集や展覧会図録の刊行も多い。それらを片手に本書を読めば、ゴンクールがいかに早くから、そしていかに幅広く緻密に北斎の画業を分析しているか、その先進性が見えてくることだろう。

(隠岐由紀子訳、平凡社東洋文庫・3520円)

1822~96年。フランスの文筆家。『北斎』刊行の5カ月後に病没。

◆もう1冊 

日野原健司編『北斎 富嶽三十六景』(岩波文庫)。カラーで全画掲載。

中日新聞 東京新聞
2020年1月19日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

中日新聞 東京新聞

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