『ドミノin上海』
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19年ぶりの続編は「上海」が舞台 スピード感あふれるパニックコメディ
[レビュアー] 大森望(翻訳家・評論家)
2001年刊行の『ドミノ』は、恩田陸の代表作のひとつ―というか、たぶん3番目か4番目くらいに読まれている長編だろう。真夏の東京駅で27人と1匹の運命がクロスし、ドミノ倒しのように出来事が連鎖してゆくピタゴラスイッチ型群像劇にして、著者の超絶技巧が冴え渡る傑作パニックコメディだ。
その『ドミノ』から19年、ついに待望の続編が登場した。題名からわかるとおり、今回の舞台は上海。
時代設定は前作の騒動の5年後。ホラー映画の巨匠フィリップ・クレイヴン監督率いる撮影クルーは、日中米合作の新作を撮るため、上海のホテル、青龍飯店に滞在中。物語は彼の最愛のペットであるダリオ(前作で大活躍したイグアナ)の葬儀というショッキングなシーンで幕を開ける。ダリオを失った哀しみのあまり、撮影は中断。製作は暗礁に乗り上げるが、実は、ダリオの亡骸にはある重大な秘密が隠されていた……。
かくして、またもやノンストップ群像コメディを構成するドミノがバタバタと倒れはじめる。今回の主役は25人と3匹(そのうちの9人と1匹は前作から引き続き登場)。そんなにいっぱい出てきても覚えられないよ! と思う人もいるかもしれませんが、心配ご無用。また、前作を読んでなくても(覚えてなくても)何の問題もない。新たな動物キャラ(上海動物公園でもっとも凶悪なパンダの厳厳と、その宿敵たるミニチュアダックスフントの燦燦)はもちろん、新進気鋭の料理長にイケメンの上海警察署長、凄腕の風水師、人気の現代美術家などなど、すべての登場人物のキャラが立ちまくり、とにかく話がわかりやすい。あれよあれよという間にどんどん加速し、気がつくとラストの一大スペクタクルに突入している。
執筆に11年を費やした562ページの大長編だというのに、体感では2時間の活劇映画を観た感じ。それこそ映画『スピード』並みのスピード感を体験してほしい。