国会をみよう 上西充子(うえにし・みつこ)著
[レビュアー] 中沢けい(作家)
◆審議の欺瞞に目を光らせて
上西充子の『国会をみよう』は今こそ読むべき重要な一冊だ。この本を読めば、ここ数年の国会で何が起きていたかを知ることができる。街頭で国会審議の映像を解説付きで見せる国会パブリックビューイングは二〇一八年六月十五日、東京・新橋駅前SL広場で始まった。
当時、国会では従来の労働法に縛られない高度プロフェッショナル制度の導入が議論されていた。議論されていたと言えば聞こえがよいが、国会審議は論点のすり替えと時間つぶしの無意味な長い答弁が繰り返されていた。街頭で国会審議の映像を解説付きで見せるという方法を始めたのは「ご飯論法」の表現を生み出し同年の流行語大賞のトップテンに選ばれた上西充子さんを中心とするグループだ。
この時、その二年後、つまり二〇年に在宅でのリモートワークがこれだけ日本社会に急激に広がる事態になることを誰が予想しただろうか。新型コロナウイルスの感染防止のために外出自粛要請が政府から出されるなどと予想した人は誰もいなかったはずだ。が、在宅での勤務が広がると、高度プロフェッショナル制度の議論がいかに重要であったかが実感されてくる。
ネットでは国会審議の欺瞞(ぎまん)は論議されていたが、ネット情報の外にいる人々にこの情報が届かない。そうした人々のために公共的空間を使った解説付き国会審議ダイジェストの国会パブリックビューイングが工夫されたプロセスとノウハウは本書に詳しい。
近ごろのテレビ報道は劣化が著しい。昨年、房総半島が台風15号に直撃されている最中にテレビは隣国の法務大臣のスキャンダルを報じていた。しかもわが国の河井前法務大臣がかかわる公選法違反事件についてはほとんど放送されなかった。国会審議は政権に都合良く編集されている。
インフルエンザ程度の脅威だと報じられていた新型コロナ流行に突如として緊急事態宣言が出されたことに面食らった人もいるだろう。なぜそんな奇怪な事が起きるのかはこの本を読むとその事情がよく分かる。
(集英社クリエイティブ・1760円)
1965年生まれ。法政大教授。著書『呪いの言葉の解きかた』など。
◆もう1冊
南彰、望月衣塑子著『安倍政治 100のファクトチェック』(集英社新書)