『トラックドライバーにも言わせて』
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【独自取材】『トラックドライバーにも言わせて』著者・橋本愛喜氏インタビュー(前編)「運転席に座ってみて初めて分かることをお伝えしたい」
[文] 藤原秀行(ロジビズ・オンライン編集長)
今年の3月に刊行された『トラックドライバーにも言わせて』(新潮新書)が、アマゾンの流通・物流(本)ランキングで第1位を獲得するなど、物流業界の内外で強い関心を集めている。本書は社会を支えるインフラとして重要な仕事のはずなのに勤務実態は厳しく、周囲からの視線も必ずしも暖かいとは言えない残念な状況を打破しようと、トラックドライバーの真実を解き明かしていることが大きな特色だ。
フリーライターとして活躍する著者の橋本愛喜氏自身、過去にドライバーを務めた経験を持つだけに、本書で語られる話は説得力を持って読み手に迫ってくる。「なぜトラックはノロノロ運転しているのか?」といった、運送事業に携わる人以外ではほとんど知られていないドライバーの常識も分かりやすく解説しているところが、他の物流業界解説本と一線を画した、圧倒的な読み応えにつながっているのだ。
ロジビズ・オンラインでは、橋本氏に本書をまとめることになったきっかけや、ドライバーという職業に対するアツい思いなどをインタビューした。3回に分けて紹介する(インタビューは今年3月に実施)。
家業を継ぐ覚悟を示すため、ドライバーの世界に飛び込む
――ご自身もトラックドライバーの経験をお持ちです。そもそもドライバーになったきっかけは本書にも詳しく書かれていますが、なりたくてなったわけではなかったそうですね。
「その通りです。きっかけはプラスチック金型の研磨工場を経営していた父が病気になったことです。小さいころから父親が業務の一環でトラックを運転している姿を見てきました。父親は私に工場経営の跡を継いでほしいと考えていたのですが、私自身は幼少時からいろいろと習い事をさせてらっている中でやりたいことが増え、将来は音楽関係の仕事に就きたいと思うようになりました。本来は全く工場の経営に関心はなかったのですが、父親がくも膜下出血で倒れたため、急きょ大学卒業直前に継ぐこととなりました」
「今でこそ工場を経営されている女性の社長さんはたくさんいらっしゃいますが、当時は本当に、工場に最盛期で35人在籍していましたが、清掃担当の方を除いて全員男性でした。父親はカリスマ性で社員の皆さんを引っ張るタイプだったので、自分もそうならなければいけないという焦りはずっと持っていました。最も重要な業務の1つがトラックで金型を引き取ったり得意先へ納品したりすることだったので、工場で働くという覚悟を職人さんや得意先に示すためには自らその厳しいドライバーの世界に飛び込むことがベストだと思ったのです」
――ドライバーだった期間はどれくらいですか。
「工場で他の仕事もありましたから、月曜から土曜まで毎日トラックに乗っていたわけではないのですが、断続的に10年ほどですね。実はその間に1年間、米国のニューヨークに行ったりしていました。10年間の特に後半はトラックに乗る頻度が高かった。そのころは家業と併せてライターや日本語教師の仕事もしていました。ドライバーの仕事を毎日されている方がいるというのはすごいことだなと感じていましたね」
――その10年間を振り返って、トラックドライバーという仕事に対して率直にどう感じていますか。
「ドライバーをしている時は本当に、心の底から無駄な時間だと思っていました(笑)。自分がやりたいと思っていたことを断ち切ってドライバーの世界に飛び込んだので、まさに詩のような話ですが、仕事の合間に空を見上げてはため息を付いていました。ただ、今、こうした本も書かせていただいたことを考えると、ドライバーをしていた時に出会った1人1人の方々にすごく感謝の気持ちもありますし、本当にやっていてよかったと思います」
「当時はいやいやで仕事をやっていましたから態度も悪かった。先輩のドライバーを『おっさん』と呼んだりしていました(笑)。ご迷惑をお掛けした方々にはごめんなさいと謝りたいですし、今こうしたライターのお仕事もさせていただいている中、今度は自分が恩返しとしてブルーカラーの人たちの環境を良くしていきたいというのが率直な気持ちです」
――ドライバーの経験があったからこそ、こういう本を書き上げることができた?
「それは間違いありません」