「うつつ」から「夢」へ連れ去る詩歌の力

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大岡信 『折々のうた』選 詩と歌謡

『大岡信 『折々のうた』選 詩と歌謡』

著者
蜂飼 耳 [著]
出版社
岩波書店
ジャンル
文学/日本文学詩歌
ISBN
9784004318156
発売日
2020/04/19
価格
858円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

「うつつ」から「夢」へ連れ去る詩歌の力

[レビュアー] 渡邊十絲子(詩人)

「折々のうた」は新聞朝刊の一面に連載された人気コラムである。詩人の大岡信が、およそ30年にわたり古今の詩歌から選りすぐりの名作を紹介した。

 連載は、岩波新書として順次まとめられた。『折々のうた』全10巻と総索引、『新 折々のうた』全9巻と総索引。すでに入手が難しくなってきたいま、改めて全5巻の選集版が作られた。俳句2巻、短歌2巻に続く最終巻が、蜂飼耳『大岡信『折々のうた』選 詩と歌謡』である。

 ここに詩の巻があることがうれしい。選者が歌人や俳人だったなら、詩は「一行や二行では伝わりにくい」という理由で敬遠されたかもしれない。わずかな字数で詩の引用と解説を書ききるのは、長文の解説を書くことの何倍も難しい。

 谷川俊太郎、中原中也、萩原朔太郎は当然として、飯島耕一も山之口貘も安西冬衛もいる、西条八十や竹久夢二もいる。日本人にとって大切な教養だった李白や杜甫の漢詩も入っている。そして、流行歌謡もちゃんとある。〈くすむ人は見られぬ 夢の 夢の 夢の世を うつつ顔して〉は中世の「閑吟集」より。陰気な顔は見ちゃいられない、夢の夢の夢のおもしろさに徹したらどうだという歌。詩歌とはこれだ。目の前のものごとに執着しがちな意識を「うつつ」からひっぺがし、「夢」のほうへ連れ去る力。この選集はそれをあますところなく伝える。大岡の気概を編者の蜂飼がしっかり受けとめた「解説」もぜひご一読を。

新潮社 週刊新潮
2020年6月11日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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