避けられた戦争 油井大三郎著

レビュー

7
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避けられた戦争

『避けられた戦争』

著者
油井 大三郎 [著]
出版社
筑摩書房
ジャンル
歴史・地理/日本歴史
ISBN
9784480073211
発売日
2020/06/10
価格
1,034円(税込)

書籍情報:openBD

避けられた戦争 油井大三郎著

[レビュアー] 立岩陽一郎(「インファクト」編集長)

◆1920年代の外交を検証

 「彼が満洲における強硬政策に対して敢然と戦っているにちがいないことをわれわれは知っていた。彼の仕事を困難にさせるような手段をとるべきではないことは、われわれには明瞭だった」

 一九二〇年代にアメリカ政府で国務長官などの要職を歴任したスティムソン氏の言葉だ。「彼」とは当時の幣原(しではら)喜重郎外相。幣原は欧米、中国との協調的な姿勢が「軟弱外交」と軍などから批判を受けていた。

 本書では、一九二〇年代の日本、欧米、中国の関係が幣原ら当時の政策担当者の言葉から描かれている。長年、日米関係を中心に国際関係史を研究してきた著者は、「歴史研究は、実際に起こった事件の因果分析を旨とする場合が多いので、棄(す)てられた選択肢は無視されがちである。しかし、実際の歴史過程では、多くの選択肢の中から特定の道が選ばれ、別な道は捨てられていった」として、その別な選択肢の発掘を目指し、その後に続く日中・太平洋戦争が避けられた可能性を探る。

 このため著者は、世界史、日本史の枠を超えて文献にあたり、当事者の言葉を丹念に追っていく。その際に注目したのは「新外交」と「旧外交」。前者は帝国主義との決別を意味し、後者は帝国主義の継続を意味した。日本でも幣原のように新外交を目指す動きが有り、冒頭のようにそれを評価する海外の目もあった。しかし、やがて軍を中心とする動きが支持を広げる中で旧外交が支配的になる。読者はそうした当時の状況を、あたかもドキュメンタリーを見ているかのように追体験していく。そして、最終的に、戦争を回避する二度の機会が有ったことを知ることになる。

 それから百年たった今、「東アジアの安全保障情勢の変化」を理由に敵地攻撃を正当化しようとする日本がある。それは当時の「満蒙(まんもう)は日本の生命線」という言葉が新外交を葬り去った状況と重なって見える。本書を読み終えた読者は、著者の取り組みが、二〇二〇年代を生きる私たちに重要な視座を与えてくれることに気づかされる。

(ちくま新書・1034円)

1945年生まれ。東京大名誉教授、一橋大名誉教授。著書『好戦の共和国アメリカ』など。

◆もう1冊

油井大三郎著『なぜ戦争観は衝突するか 日本とアメリカ』(岩波現代文庫)

中日新聞 東京新聞
2020年8月2日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

中日新聞 東京新聞

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