さだまさし「小さな人生を懸命に生きる人へのエール」――『日本人よ、かくあれ』

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日本人よ、かくあれ

『日本人よ、かくあれ』

著者
岡本彰夫 [著]/保山耕一 [写真]
出版社
ウェッジ
ジャンル
文学/日本文学、評論、随筆、その他
ISBN
9784863102309
発売日
2020/08/19
価格
1,760円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

さだまさし「小さな人生を懸命に生きる人へのエール」――『日本人よ、かくあれ』

[レビュアー] さだまさし(シンガー・ソングライター、小説家)


さだまさしさん

奈良の春日大社で長年、神職を務め、数多くの儀式や神楽などを復活させてきた岡本彰夫氏の新刊『日本人よ、かくあれ――大和の森から贈る、48の幸せの見つけ方』(ウェッジ刊)には、今を生きる私たちのためのヒントや気づきがたくさん含まれている。激動の時代にこそ必要な、日本人としての「備えと構え」を、「誇り」「しきたり」「ふるさと」「神仏」などのキーワードをもとに、48編のエッセイでわかりやすく教えてくれるこの本について、岡本氏と長年の親交がある歌手のさだまさしさんが、書評を寄せてくれた。

 ***

『上へ上へではなく、奥へ奥へと進みなさい』

 僕は岡本彰夫先生に10年以上に亘って深いお付き合いをお許しいただいていますが、岡本先生の言葉は、たとえ厳しくとも常に「情」と「心の奥行き」に満ちています。

「情」とは人間同士の心にとって、最も温かな潤滑油であり「心の奥行き」は、他も我も共に幸せにしてくれる「優しさ」の別の呼び名です。

 本書『日本人よ、かくあれ』には日本人が生きるために大切な「備えと構え」がわかりやすく語られていて、平和呆けで弛緩し切った日本人への重要な警鐘という側面を持っています。

 命懸けで奈良を撮り続けてこられた映像作家・保山耕一さんの素晴らしい作品が岡本先生の言葉にぴたりと寄り添って、高い品格に満たされた本書を是非とも日本人全員にお読みいただきたいと思います。弱者への慈しみと強者への戒めなど「箴言」に満ちた名著です。

 岡本先生の柔らかな語り口で市井に生きるささやかな人々の、生活を通した心の豊かさが温かなエピソードと共に描かれていますが、偉大な人は市井に潜んでいる、ということが、実はこの国の文化の奥行きなのだと気づかされます。


著者の岡本彰夫氏

究極の日本の「魂」

 また、懸命に一途に己の道を歩んで生きた人のみが到達できる境地「矜恃」の深み凄みこそが究極の日本の「魂」だと教わります。『みかえりのない心、計算の無い心で徳を積めば、必ず運は開けてくるんや』という言葉には、永年春日大社にお勤めになった名神主の岡本先生らしい、宗教家としての「祈り」と小さな人生を懸命に生きる人への「エール」を感じて嬉しくなります。

 現代社会を生きる人間の思い上がりに対する解りやすい諭しが『八割の幸せを享受することに全員が納得しない限り地球は滅ぶに違いない』であり『土を捨て土を汚す現代人は土にひれ伏さねばならん』という言葉に、謙虚に生きる為の心構えの基本が示されています。

 僕のように長い間歌づくりをしてきた者にとっては『日本語は調べを大切にしたいものだ』という言葉に改めて覚悟を教わり、同時に背中を押されます。47年間もコンサートで日本中を旅をしてきた僕にとって「旅」とは人生そのものなのですが『神は旅をされる、つまり旅は“神事”である』という言葉によって強い勇気を頂きました。このような慈愛に満ちた言葉の数々に感謝します。

 それから、母を亡くして4年が経つ今になって『乳房のむくい』はぐっと胸に染みてきます。これほど幾度も幾度も深く頷きながら読んだ本は人生で初めてです。どうぞ幾度も幾度も頷きながら繰り返しお読み下さい。きっと沢山の「気づき」に出会えることでしょう。


保山耕一氏が撮影した奈良の美しい風景が多数収録されている

ウェッジ
2020年8月21日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

ウェッジ

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