『家族写真』
書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます
<東北の本棚>追悼と再生広がる思い
[レビュアー] 河北新報
東日本大震災の津波により、福島県南相馬市萱浜(かいばま)地区で、両親と子ども2人を亡くした家族の肖像である。福島は、東京電力福島第1原発事故による放射能汚染のイメージが先に立つ。その陰で津波の犠牲は忘れ去られたかのよう。二重に傷ついた親の心に震災直後から寄り添った。
2011年夏、著者は河北新報の記事で知り、咲き誇るヒマワリを見に萱浜を訪れた。ヒマワリ畑の夜空に花火が上がる。花火を上げたのは家族4人を失った上野敬幸さんだった。
上野さんの両親と子どもたちは震災で小学校に一度は避難したが、自宅に戻り津波にのまれた。母と8歳の長女の遺体は見つかった。だが、父と3歳の長男が行方不明のまま。原発事故のため警察や自衛隊も捜索に入れず、上野さんら住民数人が自力で捜索するしかなかった。
失われた集落に菜の花を咲かせるプロジェクトを始めた上野さん。仲間で取り組む花火の打ち上げは「子どもに花火を見せてやりたい」と始めたが、今は全犠牲者の追悼に思いを広げる。震災前は農家を継ぐ気はなかったが、土地を守ってきた親を誇りに思っている。
看護師の妻は新しい命をおなかに宿していた。被ばくリスクを避け県外に避難した妻は、長女に最後の別れを告げることができなかった。その長女は誰より妹の誕生を待ち望んでいた。亡くなった命と残された家族をつなぐ言葉を丁寧に紡ぐ。
名古屋市のテレビ局ディレクターだった著者が萱浜でカメラを手にしていたところ、上野さんに怒鳴りつけられたのが出会い。上野さんが話してくれるまで待ち、カメラを回したのは震災1年後だった。退社後、制作に専念し本作の基となるドキュメンタリー映画「Life 生きてゆく」(2017年、山本美香記念国際ジャーナリスト賞)に結実した。(会)
◇
小学館03(3230)5966=1760円。