『家族遺棄社会 孤立、無縁、放置の果てに。』
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孤独死のある社会に必要な最後のとりで
[レビュアー] 渡邊十絲子(詩人)
特殊清掃という仕事がマスコミにとりあげられるようになってしばらく経つ。独居の人が自室で亡くなり発見が遅れると、室内は目もあてられないような状態になるが、それを片づけるのが特殊清掃である。
昔だって誰にも気づかれずに行き倒れた人などいくらでもいたはずだが、孤独死が最近の社会現象のように報じられるのは、日々誰とも会話をすることのない人が増えたからかもしれない。裏を返せば、現在は人間関係ゼロでも生きていくことだけはできるのだ。菅野久美子『家族遺棄社会』は、「孤立」や「放置」の現状を伝えている。
老いた親と縁を切りたい人に、介護施設の選定から葬儀までをまるごと引き受けるビジネスがある。それを見て「人の心がない」と嘆くのは簡単だが、これがなければ親と心中するしかないというほど追いつめられた人をどう救うのか。この本は、社会からあまり好意を持たれない、しかし最後のとりでとして必要な仕事をしている人たちに目を向ける。もちろん、あらゆる支援の網目からもれ、衰弱している人たちの話もよく聞いている。
孤立状態で動けなくなった人は、たとえばペットボトルに尿をためていく。個性も人格も吹き飛び、普遍的な「困窮した人間」になるのだ。こういう人を、誰がどう支援すればいいか。コストという冷徹な視点に立ってさえ、放置が最善策とは思えない。われわれのなかに、この問題と無縁な人はいないのだ。