ヒューマンミステリーの旗手による新シリーズ 『刑事何森 孤高の相貌』丸山正樹

レビュー

4
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刑事何森 孤高の相貌

『刑事何森 孤高の相貌』

著者
丸山 正樹 [著]
出版社
東京創元社
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784488028138
発売日
2020/09/24
価格
1,980円(税込)

書籍情報:openBD

ヒューマンミステリーの旗手による新シリーズ 『刑事何森 孤高の相貌』丸山正樹

[レビュアー] 三浦天紗子(ライター、ブックカウンセラー)

 著者は、デフ(ろう者)の両親をもつ聴者=コーダ(CODA)の荒井尚人(あらいなおと)が、手話通訳士として法廷で活躍する〈デフ・ヴォイス〉シリーズで熱い支持を集める作家。荒井が関わる事件関係者や家族の状況を通して、ろう者の日常がいかに困難で、健聴者(けんちょうしゃ)に理解されていないかを訴えてきた。シリーズ三冊めの『慟哭(どうこく)は聴こえない』に収録された「静かな男」という一編は、ろう者の変死体が発見され、その身元を調べていく刑事が活躍するのだが、それが本書の主役である埼玉県警の昔気質の刑事、何森稔(いずもりみのる)だ。事件にはやはり何らかの障がいがある人が関わっていて、この著者の持ち味である弱者への優しい目線が揺らがない連作になっている。

「二階の死体」では、車椅子生活の娘とふたり暮らしだった母親が撲殺された事件が軸になる。本部の見立てに納得できない何森が、なぜ死体が二階にあったのかを焦点にして見抜く結末は切ない。「灰色でなく」は、窃盗(せっとう)の被疑者となった青年には自分の主張に一貫性がない〈供述弱者〉という特性があり、冤罪(えんざい)ではないのかと睨(にら)んだ何森が独自に調査を進めていく物語。「ロスト」では、銀行強盗で服役した男が仮釈放されることになり、その監視役を何森が担う。〈名無しのロク〉と呼ばれるその男の全生活史健忘の秘密や、消えた現金と共犯者を調べ直し始めた何森は違和感を感じ、意外な真相にたどり着く。ロクが犯行に手を染めた切実な背景や、何森の熱い正義感の理由の一端に胸が詰まるはずだ。

〈デフ・ヴォイス〉シリーズのスピンオフである本書では、反対に、荒井やその妻のみゆきが顔を出す。二つのシリーズの関係は、さらに切っては切れないものになっていくのかもしれない。

光文社 小説宝石
2020年11月号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

光文社

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