<東北の本棚>豊かな食、移住者を魅了
[レビュアー] 河北新報
都会育ちの人がそれまで縁のなかった農村に移住したら、外国にでも暮らしているような錯覚を抱くかもしれない。好奇心を持ち合わせていたら、新鮮で興味深く見つめることができるのだろう。そんな感想を抱く本書だ。
結婚を機に妻の実家である岩手県内の農家に東京から引っ越した漫画家の著者が、初めての農家暮らしを、食卓に上る料理を軸に優しいタッチの漫画で紹介する。
義理の祖母と母が暮らす農家に妻と住み始めた著者。田植えや草刈り、地域行事、稲刈り、冬支度、お正月など、四季折々の農村暮らしの日常を描写しながら、毎回、季節の野菜など旬の食材で調理される「農家メシ」に舌鼓を打つ。見習いの身ながら農作業の労働の後に味わう食。疲れた体にじんわりと染み渡り、しみじみ感動しながら、「んま~い」とつぶやき農村の豊かさをもかみしめる。
24話全てが同じような締め方で、何となく安心してしまうのはほっこりした画風とゆるいストーリー展開ゆえか。春から翌春まで丸1年、1話ごとに季節の話題が盛り込まれ、食に限らず農村の日常風景を垣間見ることができる。
架空の食卓ではないリアルな農家体験ならではの説得力と、新天地を楽しむ優しいまなざしが感じられる。(相)
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幻冬舎03(5411)6222=1430円。